【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
新聞記者としてインド、パキスタン、イラン、タイの現地支局を経て201
1年から3年間、ミャンマー最大の都市ヤンゴンに赴任した著者による、ミャンマー政治のルポ。これまで経験したどの国よりもミャンマーでは情報統制が厳しく、取材活動が円滑に進まなかったと打ち明ける。
たとえばテイン・セイン元大統領の生年月日が、誰に聞いてもわからない。大統領府が明らかにしていないのだ。取材した情報省の幹部は、ミャンマーの政治指導者の誕生日はトップシークレットだと語った。それはなぜか。黒魔術で、誕生日をもとに呪いをかけられることを恐れているからだ。
取材を進めた著者は、ミャンマーでは国民の約9割を仏教徒が占める一方で、占星術や数秘術、手相、呪術、超能力、精霊など多種多様な信仰が存在し、暮らしや人生を左右していることを明かす。2006年になぜ突然、首都がヤンゴンからネピドーに遷都したのか。その理由も当然、占星術や数秘術などが絡んでいる。政治家には大抵お抱えの占い師がいて、軍事クーデターを起こす日も占いで決めるという。
ただし占いがすべて当たるわけではない。それでも彼らは平然としていて、占い信仰が衰えないのが面白い。
1962年から軍事政権が続いたミャンマーは、著者が赴任した2011年に大統領に就任したテイン・セインが民主化政策を進めた。さらに16年には長く民主化運動を率いてきたアウンサンスーチーが党首を務める国民民主連盟による民主政権が発足し、社会は大きな変革の時期にある。
アウンサンスーチーは誕生日を公表しているが、今後、彼女が願ってきたミャンマーの民主化がさらに進めば、社会はどう変わるのか。占い信仰は衰退するのか。これからミャンマーがどう変わっていくかにも大いに興味が湧いてくる。