19世紀後半のパリを中心に、日常の経験を通して受ける市民生活を表現した印象派の画家たち。当時のヨーロッパを席巻していたジャポニスムの観点から、日本の浮世絵の影響が指摘されるが、扇子や着物、屏風絵など、琳派への関心が高まっていたことはあまり知られていない。
アーティゾン美術館で開催中の『琳派と印象派 東⻄都市文化が生んだ美術』では、琳派と印象派を、京都や江戸、パリといった都市が生み出した美術と捉え、絵画や工芸を合わせて約100点展示している(国宝2点、重要文化財7点を含む)。中にはアメリカから里帰りして日本初公開となる尾形光琳の『富士三壺図屛風』などの珍しい作品も。マネやモネ、ルノワールらの充実した印象派コレクションと琳派の名品を一緒に楽しめる、実に贅沢な展覧会だ。
5つのキーワードから両派を比較する第二章「琳派×印象派」が特に面白い。そのうちのひとつである「水の表現」では、尾形光琳の『流水図広蓋』(展示終了)越しにクロード・モネの『睡蓮の池』が展示されている。琳派が水の流れを意匠化しているのに対し、印象派も光を受けて変化する水面に関心を寄せていたことが分かるだろう。「扇形」も重要なキーワードだ。宗達工房や中村芳中は扇面へ古典絵巻の一部や草花の絵を描いた一方、日本や東洋の扇に魅了されたマネも扇の形を使って静物画を表した。空間表現に着目した「間(ま)」では、人体の一瞬の動きを捉えたドガの踊り子の彫刻の向こうに、5組の舞楽を余白を活かして巧みに配置した俵屋宗達の『舞楽図屛風』(展示終了)が展示されている。かつて見たことのないような斬新な組み合わせに、胸が高鳴る。
ラストの「都市を離れて」も要注目だ。ここではともに山をモチーフとしたポール・セザンヌの『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』と鈴木其一の『富士筑波山図屛風』を展示しているのだが、驚くことに一双の屛風を左右に引き離して、セザンヌの絵画を挟む形で見せている。青みがかったサント=ヴィクトワール山と筑波山のイメージが重なり合うような光景はもはや衝撃だ。旧名のブリヂストン美術館からの建て替えによる休館の間にコレクションに加わった尾形光琳の『孔雀立葵図屛風』など12点の作品が初公開になっている。同館だからこそ実現した琳派と印象派の貴重なコラボレーションを見逃さないようにしたい。
『琳派と印象派 東⻄都市文化が生んだ美術』
開催期間:2020年11月14日(土)~2021年1月24日(日)
前期:11月14日(土)〜12月20日(日)、後期:12月22日(火)〜1月24日(日) ※会期中展示替えあり
開催場所:アーティゾン美術館
東京都中央区京橋1-7-2
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月、12月28日〜2021年1月4日、1月12日(2021年1月11日は開館)
入場料:一般¥1,700(ウェブ予約チケット、税込)
※オンラインでの日時指定予約制。マスク着用や入館前の検温、手指消毒液を設置するなど、新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施。
https://www.artizon.museum