ある言語で書かれたり話されたりする言葉を、別の言語に変換することを意味する「トランスレーション=翻訳」。それをわかりあえないはずの他者同士がコミュニケーションを図るプロセスとして広く捉え、「翻訳技法のワンダーランド」をつくろうとする試みが21_21 DESIGN SIGHTで行われている。
『トランスレーションズ展−「わかりあえなさ」をわかりあおう』では、情報学を専門とするドミニク・チェンをディレクターに迎え、国内外の研究者やデザイナーらが、人同士はもちろん、微生物や植物、動物、さらに無機物と対話しようとするプロジェクトを披露している。なかには最先端のAIやテクノロジーを用いた作品もあり、近未来のコミュニケーションについて考察することができる。
そもそも「翻訳」とは、言語だけに頼らず、視覚や聴覚などの五感や身体表現を用いてなされると言える。本田達也は、聴覚に障がいのある人でも音を感じられるデバイスの『オンテナ』を開発。音の振動を光の強さに変換することで、聞こえずとも音の特徴を体感できるようにした。和田夏美+筧康明は『…のイメージ』において、手話により雨や雲の天気や飛行機が飛ぶ光景をアニメーションに表せる作品を展示している。いずれも見えなかったり聞こえなかったりする人とのコミュニケーションを取るための、意欲的な取り組みと言える。
人以外の生物との「翻訳」の試みもチャレンジングだ。「サメと人が愛し合うことは可能なのか?」と問う長谷川愛は、『Human×Shark』という作品で、サメがを性的に惹起する匂いを放つ化学物質を調合。実際にダイビングスーツに付けて潜りながら、サメを引き寄せる光景を見せている。さらに声のない植物に言語を確立しようとするのが、シュペラ・ピートリッチの『密やかな言語の研究所:読唇術』だ。光合成のために使われる葉の気孔を動物の唇に見立て、開閉を読唇術やAIで読み取ろうとしている。奇抜に思えるアイデアだが、いつか植物と対話する時代が来ることを空想するのも楽しい。
スマホやSNSなどによって、いつどこでも人々がつながることが可能になった一方で、多様化したコミュニケーションには、わかりえない者同士による分断や対立などの問題も生じている。『トランスレーションズ展』では、あえて「わかりあえなさ」に向き合いつつ、他者や異文化に対して大いに共感することを目指している。ここには従来のコミュニケーションを見直し、世界のあらゆる事物と交流するための知恵やヒントがちりばめられているのだ。
『トランスレーションズ展−「わかりあえなさ」をわかりあおう』
開催期間:2020年10月16日(金)〜2021年3月7日(日)
開催場所:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
TEL:03-3475-2121
開館時間:11時~18時30分 ※入場は18時まで。土日祝は10時より開館
休館日:火(2/23は開館)、年末年始(12/26〜2021/1/3)
入場料:一般¥1,200(税込)
※マスク着用や入館前の検温、手指消毒液を設置するなど、新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施。
www.2121designsight.jp