巨大なハリケーンや広範囲の甚大な山火事などの自然災害に見舞われ、深刻な気候変動をリアルに体験しているアメリカ。パリ協定から離脱し環境政策の後退を続けるトランプ政権とは対照的に「気候変動は人為的なものだ」という人々の意識が高まっている。この意識変化に伴い注目されているのが肉や魚、乳製品など動物性タンパク質の代用食品であるプラントベースミート(植物由来の代替肉)だ。
ひとり当たり年間100kg近い肉を消費するアメリカでは、健康や動物愛護などが理由の菜食主義やヴィーガンが一部定着し、ベジバーガーやヴィーガン食品が珍しくなくなった。2018年のギャロップ社調査では、アメリカの菜食主義人口は5%で過去20年一定していた。ところが、今年発表された同社の調査によると4人に1人が意識的に肉の消費量を減らしており、肉食離れが進行している事実が判明。理由は健康だけでなくエシカルやエコ、そしてサステイナビリティにある。
代替肉は広く浸透し、培養肉の製品化も近い。
なぜ代替肉が環境に優しいのか? 理由は家畜による莫大な温室効果ガスの排出、飼料作物や牧草地のための広大な土地開拓、大量の水使用といった環境負荷の低減にある。畜産が縮小すれば、気候変動や水不足が緩和されるかもしれない。こうした時流に呼応して脱肉食を選ぶ人が増え、植物由来の代替肉の需要が急増し、細胞から直接肉をつくる「培養肉」にも投資が集まる。
現在のアメリカで消費者が普通に食べることができるのは、豆類を原料にした植物由来の代替肉。そのトップが「インポッシブルフーズ」と「ビヨンドミート」。「ありえない(を可能にする)」「(肉を)超越する」というブランド名も強気な2社に共通する戦略は、限りなく肉に近い商品の実現によって欲望を否定せず、新しい食材のクールさを訴求したところにある。
インポッシブルフーズの商品「インポッシブル」は血の滴りや鉄含有タンパク質の香りまでも再現。その秘密は遺伝子組み換えによる植物性の魔法の素材「ヘム」を使うところにある。自然派の反対意見に対し「持続可能な世界には遺伝子組み換え食品が必要だ」と大胆な主張。自慢の商品を、肉をメイン食材にする有名ハンバーガーチェーンやセレブシェフの有名レストランで“おいしい肉”としてアピールした。もはやそれらの店ではインポッシブルはアイコンとなっており「代替肉」と明記されていないことも多い。
快進撃を続ける両社の商品は現在、スーパーでも購入可能だ。店頭にはブームに触発された新参ブランドの鶏肉やソーセージ、卵などの代用食品も数多い。そして動物の細胞からつくり出す培養肉を急ピッチで開発している「メンフィスミーツ」も商品化に向け着々と準備を進めている。
プラントベースミートをはじめ、肉が好きだから選ぶ代替肉が、環境と寄り添う生活に浸透し始めた。
こちらは2020年11月2日(月)発売のPen「サステイナブルに暮らしたい。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
ご予約・ご購入はこちら