10月23日(金)から日本公開が始まった『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』は、ライブやレコーディング風景などの豊富なフッテージをつなぎ、わずか10年ほどの活動でロック史に名を刻んだザ・バンドの軌跡をたどるドキュメンタリー。この記事では、ザ・バンドのエッセンスを感じる現役&新進のアーティストを5組紹介する。
現存するメンバーはロビー・ロバートソンとガース・ハドソンだけになってしまい、残された彼らのソロ活動も決して活発ではないが、ザ・バンドとしての影響力は年々増している。特にアメリカでフォロワーが顕在化するようになったのは、ベックのようにサンプリングも自在に取り入れたオルタナ世代がザ・バンドの作品を評価した90年代。その後、2000年代に入ると自国の音楽財産への見直し、再評価が高まり、フォーキーでダウン・トゥ・アースな音作りを求める新世代が人気を獲得していった。ザ・バンドの芳醇な作品の数々はもとより、メンバー間の絆とその崩壊までもを伝えるヒューマニズムは、スタイル問わず、若手のお手本になっていると言っていい。
1.60~70年代の、ルーツ音楽のニュアンスを再定義。|ウィルコ
2.自分たちのスタジオでの音作りも、ザ・バンド的。|ザ・ナショナル
3.アナログな環境でつくる、心温まるフォーキーな曲。|ケヴィン・モービー
4.20代のシンガーが奏でる、ノスタルジックな音色。|フェイ・ウェブスター
5.南部サウンドへの愛情を、迫力あるロックサウンドにのせて。|アラバマ・シェイクス
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1.60~70年代の、ルーツ音楽のニュアンスを再定義。|ウィルコ
アメリカ・シカゴで結成されて四半世紀という6人組。いまやアメリカを代表するロックバンドだが、ボーカル/ギターのジェフ・トゥイーディー以下、メンバー全員が複数の楽器を演奏し、曲作りにも関われるところはザ・バンドさながら。前身バンドであるアンクル・テュペロ時代からのカントリー指向にとどまることなく、現代音楽~実験音楽の領域でも活躍するギターのネルス・クラインやドラムのグレン・コッツェらが刺激的なプレイを持ち込むことで、ザ・バンドが活動していた時代のルーツ音楽のニュアンスを再定義しているのがいい。2014年発表のベスト盤『What's Your 20? Essential Tracks 1994-2014』は、ザ・バンドを含め多くのリイシューに関わるシェリル・パヴェルスキがプロデュースしている。
2.自分たちのスタジオでの音作りも、ザ・バンド的。|ザ・ナショナル
二組の双子兄弟を含むこの5人組も、活動開始から約20年でR.E.M.やウィルコに続くアメリカの国民的バンドへと成長。オルタナティブ・ロックの洗礼を受けている世代ならではの感覚で、フォークやカントリーも咀嚼している。ダイナミックなライブが武器で、ボーカルのマット・バーニンガーもザ・バンドのロビー・ロバートソンにも負けないカリスマ性と歌唱力の持ち主。ボン・イヴェールら仲間ミュージシャンと手を組みイベント企画やレーベル運営するような、草の根的な行動力も魅力だ。メンバーのアーロン・デスナーがニューヨーク郊外にスタジオを所有する制作環境も、「ビッグ・ピンク」で作業していたザ・バンドやボブ・ディランを思い出す。
3.アナログな環境でつくる、心温まるフォーキーな曲。|ケヴィン・モービー
テキサス出身ながらニューヨークはブルックリンへと移り、ウッズ~ザ・ベイビーズなどのバンドで活動してきたシンガーソングライターのケヴィン・モービー。2010年代以降、またアーシーな音作りを指向する若手アーティストが見直されているなか、実際に旧式の4トラックレコーダーを用いて録音してみたり、古い機材のスタジオで録音してみたりと、60~70年代の作品を思わせるアナログな環境に敢えて身を置くこだわりも面白い。2019年の前作ではピアノやオルガン使いをメインとしていて、まるでザ・バンドのリチャード・マニュエルやガース・ハドソンさながらだったが、この最新作では再びアコースティック・ギターでアーシーな風合いの歌を聴かせている。
4.20代のシンガーが奏でる、ノスタルジックな音色。|フェイ・ウェブスター
多様な女性シンガー・ソングライターが活躍する現在のアメリカにおいて、南部アトランタ出身のフェイはまだ20代前半とは思えない渋い音楽趣味。実際に作品のあちこちからペダル・スティールの音色が聞こえてくるような、いかにも南部らしい土臭くもノスタルジックな風合いだが、一方でソウルやブルーズの要素をにじませているのも特徴。ザ・バンドを「黒人音楽の発展系であるロック」として捉えているような影響が感じられるのが興味深い。なかでも、地元のラッパー、ファーザーと共演した本作収録曲「Flowers」からは、ザ・バンドの解散ライブ『ラスト・ワルツ』に出演したエミルー・ハリスのような、リベラルでアウトロー的な側面も伝わってくる。
5.南部サウンドへの愛情を、迫力あるロックサウンドにのせて。|アラバマ・シェイクス
バンド名そのまま、アメリカ南部のアラバマ州で結成された男女4人組。紅一点ボーカルのブリタニー・ハワードのパンチの効いた歌と、泥臭くもモダンな演奏とが高く評価されている。そして何より、ブルーズを素地とした南部サウンドへの愛情を、グルービーなロックサウンドで堂々と聴かせるその誇り高き姿勢が彼らの魅力だ。黒人音楽をあくまでポップミュージックとして捉えて形にしようとする姿勢も、ザ・バンドの柔軟な音楽指向を思い出させる。真にサザン・ロックを鳴らしているアラバマ・シェイクスの存在は、カナダ結成ながらアラン・トゥーサンと共演するなど南部サウンドへの憧れを抱いていたザ・バンドが、もし現在全盛期として活動していたらきっとこんな音楽をやっていたのでは……?と想像させるに十分だ。
『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』
監督/ダニエル・ロアー
出演/ロビー・ロバートソンほか
2019年 カナダ・アメリカ合作映画 1時間41分
10月23日(金)より角川シネマ有楽町、渋谷WHITE CINE QUINTOほかにて公開。
https://theband.ayapro.ne.jp/