LGBTQカルチャーのレジェンド、Tom of Finlandの日本初個展で性的マイノリティの権利について考える。

  • 文:中島良平
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Untitled (From the Athletic Model Guild “Motorcycle Thief” Series) Tom of Finland 1963年 © 1963-2020 Tom of Finland Foundation 「来年のミスター・ユニバースは誰だ」と書かれたポスターの前に立つふたり。ゴリゴリのバイカースタイルは、ひ弱に描かれることの多かった従来のゲイのイメージを覆す表現として脚光を浴びた。

筋骨隆々の身体にレザージャケットとピチピチのデニム、白いタンクトップをまとい、ときには頭にポリスキャップを。いまやステレオタイプのひとつとなったゲイの姿をビジュアル化して広めたアーティスト、Tom of Finland(1920-1991)の個展が日本で初めて開催される。

フィンランドに生まれたTom of Finlandことトウコ・ラークソネン。ピアノや絵を愛する芸術家志向の彼が第二次世界大戦で従軍し、そこで初めて恋をした相手が同じく軍に所属するパイロットだった。終戦を迎え、ラークソネンは昼に広告会社で働き、夜は自室にこもって戦場で出会ったたくましい男たちの絵を描き続けた。同性愛が法律で禁止されていた当時、夜に自室で生み出すファンタジーに没頭していたのだ。スケッチブックに描かれる兵士はやがて肉体労働者に、さらには警察官やバイカーなどマッチョな装いに身を包む屈強な男たちへとモチーフが展開していく。やがてラークソネンの作品は、アンダーグラウンドのゲイコミュニティ内で人気を集めるようになった。

そして1957年、フィンランド語の自分の名前がわかりにくいだろうと考えたラークソネンは、「Tom」の署名でアメリカのフィットネス雑誌『Physique Pictorial』に作品を送った。掲載された時のアーティスト名が「Tom of Finland」。アメリカで同性愛者の権利運動を推進していた同誌の読者たちは即座に反応した。屈強な身体を誇りたいゲイたちの存在も世間に知ってもらえるのだと。

Tom of Finlandの生誕100周年の今年、日本で初めて開催される個展では、作風の変遷を辿るのと同時に、世界に向けてLGBTQの権利を主張した社会活動家としての一面も紹介される。同性愛が禁じられていた終戦後のフィンランドで、トウコ・ラークソネンは人目に隠れどのような気持ちで欲望をスケッチブックに吐き出していたのだろう? やがて、LGBTQの権利を主張する声の高まりを肌に感じながら、アメリカで評価を得て大きな解放感を得られるまでに至ったときには、どれだけの達成感を感じたのだろう? 性的マイノリティとして主張を続けたTom of Finlandの作品の変遷を辿ると、彼にとっての表現がまさに人生を賭けたライフワークだったということが感じられるはずだ。

『Tom's Finnish Tango』Tom of Finland 1947年 © 1947-2020 Tom of Finland Foundation 終戦から間もないころに描かれた作品。筋骨隆々のゲイはまだ登場していないが、男性同士でうっとりと踊る姿には、自らが押し殺していた願望が投影されているのだろう。

『David, a Beauty』Tom of Finland 1989年 © 1989-2020 Tom of Finland Foundationキャリア後期にアメリカ西海岸へと拠点を移したTom of Finland晩年の作品。「ゲイの男らしさ」を描きたいという表現の基本は変わらずも、時代ごとにコミュニティ内での流行の変遷があったことが読み取れる。

『生き肝』田亀源五郎 2011年 Coutesy of the artist 展覧会をキュレーションしたキュレーターのシャイ・オハヨンが、Tom of Finlandから影響を受けた日本人アーティストの作品を紹介するサテライト展示『Tomへの頌歌』も企画。自身が東京・中目黒で運営するギャラリーThe Containerに、田亀源五郎、三島剛、児雷也の作品が集結する。

『GG20-01』児雷也 2020年 Courtesy of the artist 1999年に漫画家としてデビューした児雷也は、2001年から2006年までゲイ雑誌『G-men』で表紙イラストを担当するなど、イラストレーターとしても活躍。近年はフランスでも作品集が出版されるなど、海外でも作品が注目されている。

Reality & Fantasy The World of Tom of Finland
開催期間:2020年9月18日(金)〜10月5日(月)
開催場所:GALLERY X(渋谷PARCO B1F)
東京都渋谷区宇田川町15-1
TEL:03-6712-7505
開館時間:11時〜21時
※展示室入場は閉廊の30分前まで
※11月下旬に心斎橋PARCOに巡回予定
会期中無休
入館料:一般¥500
https://art.parco.jp

サテライト展『Tomへの頌歌』
開催期間:2020年9月21日(月)〜11月30日(月)
開催場所:The Container(BROSS TOKYO内)
東京都目黒区上目黒1-8-30ヒルズ代官山1F
TEL:03-3770-7750(BROSS TOKYO)
開館時間:11時〜21時(月、水〜金)、10時〜20時(日、祝)
休廊日:火、第3月曜
入場無料
http://the-container.com