窓辺や部屋のコーナー、シェルフやベッドサイドに置きたいテーブルランプ。照らす範囲は限られていても、小さな明かりが空間に与える効果は絶大だ。点灯時はもちろん、昼間もそこにあるだけで美しいオブジェのようなテーブルランプを紹介する。
バウハウスを代表するヴィルヘルム・ワーゲンフェルド、イタリア・モダンデザインを育てたジオ・ポンティとヴィコ・マジストレッティ、現在のデザインシーンを牽引するジャスパー・モリソンとマイケル・アナスタシアデス。いつの時代もデザイナーたちが挑む、ラウンドシェイプのランプ。温かみのある光は、どこか満月を眺めるような満ち足りた気持ちにさせてくれる。
バウハウスが生んだ、工業デザインランプの先駆け。
バウハウス出身のプロダクトデザイナー、ヴィルヘルム・ワーゲンフェルドのテーブルランプはドイツのテクノルーメン社製。装飾的なランプが主流であった1920年代に、余分な要素を極限まで削ぎ落とし、円と直線で構成されたシンプルさを叶えた。工芸と芸術の融合を目指したバウハウスの哲学を体現するデザインが、「バウハウスランプ」と呼ばれる所以だ。
テクノルーメンの創業者であるウォルター・シュネペルは、ワーゲンフェルドのスタジオを訪ねた時に埃をかぶったこのランプと出合う。学生時代にデザインしたまま、これまでに製造業者がいなかったことを知り、自ら製造を決意する。大量生産を前提とした設計ではあるが、当時のディテールに忠実に製作しているため、ガラス職人や金属工による手仕事が鍵だ。ワーゲンフェルドが生まれたブレーメンで、いまもていねいに組み立てられている。
イタリア・モダンデザインの父の手による、名作照明。
球体と円錐という幾何学的なモチーフを組み合わせた「ビリア」。デザインしたのはイタリア・モダンデザインの父と呼ばれる建築家、ジオ・ポンティだ。
ポンティは1932年、ミラノのドゥオーモにもステンドグラスを収めるガラスメーカーのルイージフォンタナ社内に照明ブランド、フォンタナ・アルテを創設する。同社でガラスを扱ううち、ポンティは照明器具やオブジェの制作に力を入れるようになっていた。「ビリア」はその黎明期ともいえる時期の作品だ。アンバランスなコーンの上のボールは佇まいにどこか愛嬌がある。色違いで真鍮、ブラックがあり、ひと回り小さい「ビリア ミニ」は、ポンティのスケッチから復刻したレッドやイエローなどビビッドなカラー展開も。20世紀のイタリアモダンを象徴する名作ランプは、90年の時を経たいまも輝き続けている。
単一素材が引き立てる、グラフィカルな美しいシルエット
1977年にヴィコ・マジストレッティがデザインした白色の「アトーロ」は、ムラーノで手吹きされる半透明なオパールガラスを通した柔らかな光がランプ全体から溢れ出すのが魅力だ。
このランプの特徴はなにより、半球のシェード内部だけでなく、円柱と円錐のベース部分も発光することにある。本体底部内にも電球が入り、シェード内部からの直接光とベース部分からの間接光が組み合わさって、キャンドルのように柔らかな光をあたりに投げかける。ガラスのみで作られたシリンダーと半球を組み合わせたシンプルなフォルムは時代や流行に左右されず、本質を突いたもの。一方でアルミ素材による黒、ゴールド、ブロンズもあり、素材の異なる美しい光を放つ。マジストレッティの哲学を映し出す「アトーロ」は、イタリアデザインを象徴する存在として不変の人気を誇っている。
いつまでも眺めていたくなる、絶妙なオーバルシェイプ
1998年に発表されたジャスパー・モリソンによる「グローボール」は、イタリアを代表する照明メーカー、フロスのいまを代表する定番のひとつだ。正円ではなく横長の楕円は人の手で描かれたラインだからこその温もりがあり、見るほどに愛着が湧く。
イタリアで職人が手吹きするガラスシェードは表面がフロスト加工され、柔らかな光を均一に回す。また光源はランプの台座ごとすっぽりとガラスのシェードに収まるよう設計されており、シンプルなフォルムの随所にこだわりが感じられる。「よい製品とは、短いスパンではなく、何年経っても使い続けてもらえるような、謙虚で静かな、そして暮らしの中で便利な道具である」というモリソンの信念を体現するプロダクトのひとつだ。壁付け、ペンダント、シーリング、スタンドなど多彩なシリーズは、サイズも豊富で複数を組み合わせるのもいい。
時とともに美しさを増す、光るオブジェ
光の球が真鍮の台座の縁ギリギリに留まる、危うくも美しいバランス。コンテンポラリーアートのようなテーブルライトは、デザイナーのマイケル・アナスタシアデスが自身の名を冠したブランドから2013年に発表した作品。アナスタシアデスはイタリアの照明ブランド、フロスでも多くのデザインを手がけているが、自身のブランドでは世界各地のユニークな技術をもつ小さな製造所と協業し、よりアート性やクラフト色の強い照明をつくる。美しい真球の吹きガラスも職人の高度な技術が可能にした形だ。
ミニマルでエレガント、幾何学的でグラフィカルなランプを生み出すアナスタシアデス。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで工業デザインを学ぶ前は、インペリアル・カレッジ・ロンドンで土木技師としての訓練を受けていた異色の経歴をもつ。常に対話性、関係性、相互性を意識し、素材の性質を引き出すことが彼のデザイン哲学。このライトも、球体と台座の絶妙なバランス、そして乳白色のオパリンガラスと真鍮という素材の魅力が最大限に活かされている。