日本国内のチーズ工房数は年々増加の一途をたどり、いまや300以上。海外のコンクールで入賞を果たすものも登場している。家で食事をする機会が増えたいま、まず狙うべき国産チーズはどれなのか。今回はチーズのプロとしてメディアや講演で活躍する圓子(まるこ)チーズさんがハード、青カビ、シェーヴル、白カビ、フレッシュと異なるタイプから、本当においしい5つの銘柄を厳選。おいしさをさらに引き出す食べ方や、相性のよいドリンクとともに教えてくれた。目覚ましい進化を続ける国産チーズ、その魅力を体感してほしい。
1.「タカラのタカラ」──加熱すると旨味が増す、ハードタイプの逸品。
2.「ブルーチーズ」──数々の受賞歴を誇る、しっかりした塩味と濃厚な味わい。
3.「 茶臼岳」──臭みのない、シルキーでなめらかなシェーヴルチーズ
4.「カマンベール」──牛乳本来の甘みとクリーミーな食感のチーズの王道。
5.「 東京ブッラータ」──ナイフを入れれば、生クリームがあふれ出す。
1.「タカラのタカラ」──加熱すると旨味が増す、ハードタイプの逸品。
チーズ工房タカラがあるのは、その美しさから蝦夷富士とも呼ばれる北海道の羊蹄山(ようていざん)の麓。酪農一家に生まれた斉藤愛三さんが、同名の牧場タカラで生産されるこだわりのミルクを使い、奥深い味のチーズを生み出す。圓子さんが選んだ「タカラのタカラ」は、ハードタイプの熟成チーズ。国産ナチュラルチーズのコンクール「ジャパンチーズアワード2018」でグランプリを獲得した注目の一品だ。
「キャラメルやローストアーモンド、バタースコッチのような香ばしく甘い香りが心地よく、旨味やコクが味わえるチーズ。チーズ好きはもちろん、どんな方にも愛される味です」と圓子さん。そのまま食べても十分おいしいけれど、ひと手間加えるとさらなる喜びが。「パン・ド・カンパーニュなど味わい深い田舎パンに『タカラのタカラ』をのせたトースト。また、ジャガイモやれんこん、ズッキーニなどの野菜とともに焼くのもいい。このチーズは加熱することで旨味を最大限に引き出すことができるのです」
2.「ブルーチーズ」──数々の受賞歴を誇る、しっかりした塩味と濃厚な味わい。
1982年に長野県東御市で創業。国産ブルーチーズ製造の先駆けになるなど、日本のナチュラルチーズ工房としては長い歴史を刻むアトリエ・ド・フロマージュ。圓子さんお薦めの「ブルーチーズ」は、ヨーロッパに負けない青カビチーズを目指して30年以上前に開発を始めたもの。いまでは国内外のチーズコンテストで数々の受賞歴を誇るほど、専門家の評価は高い。
「なめらかな食感に青カビ特有の刺激、しっかりした塩味、濃厚な味わいが特徴。ヨーロッパの青カビチーズを思わせる本格派でありながら、日本らしい繊細さと品のよさを感じさせます。いつでも安定した味が楽しめる点も素晴らしい」と絶賛する圓子さん。良質な青カビチーズは甘いものとの相性が抜群。「ハチミツや干しブドウはもちろん、リンゴなど甘み&酸味のあるフレッシュフルーツと合わせてもいいですね」。料理に使えば、活躍の幅がもっと広がる。「セロリやキュウリ、アンディーブなどの野菜につけるディップソースとして。パスタソースやピザのトッピング、さらに椎茸などキノコ類やさつまいもにのせて焼きチーズにしてもおいしい。チーズそのものの味が濃いので、料理のいいアクセントになってくれます」
3.「 茶臼岳」──臭みのない、シルキーでなめらかなシェーヴルチーズ
昭和20年代に那須高原で生乳づくりを始めた今牧場がチーズ工房をオープンしたのは8年前。チーズ職人の国際的組織「ギルド・クラブ・ジャポン」の認証を受けた高橋雄幸・ゆかりさん夫妻がチーズづくりを担当する。今回、圓子さんが選んだ「茶臼岳」は、雄幸さんが手がける熟成タイプのシェーヴルチーズ。
シェーヴルとは、ヤギのこと。ヤギのチーズに苦手意識をもつ人もいるが「新鮮な原料を使い、確かな技術があるので、特有の臭みはなし。ぜひチャレンジしてほしい逸品です」と圓子さん。「口当たりはシルキーでなめらか。チーズが少しずつほどけながら溶けていく感じがたまりません。ほどよい塩味と酸味、そして熟成からくるコクが、濃密さを生み出しています」。お薦めの食べ方は「シンプルな味わいのバゲットに、チーズといちごジャムやアプリコットジャムをのせて。サラダなら、ハーブや葉物野菜の上に薄くカットしてトッピング。パイの具にするなど、加熱してもおいしくいただけます」
4.「カマンベール」──牛乳本来の甘みとクリーミーな食感のチーズの王道。
開田高原チーズの原料は、長野県御嶽の麓に広がる標高1100mの高原でのびのびと育った牛のミルク。万谷ファームから工房へ、搾乳されたばかりの状態で運ばれてくる。圓子さんがセレクトしたのは、日本人にも好まれているカマンベール。チーズの王道だ。
「実はつくる際に苦味が出やすく、原料や製造技術の良し悪しに左右されやすいチーズです。このカマンベールは牛乳本来の甘みと、クリーミーな食感が特徴。熟成の若いときは軽やかですが、熟成が進むにつれ力強い味わいになります」。そのまま食べておいしく、加熱すればトロトロ感を楽しめるカマンベール。「シンプルにいくなら、バゲットに生ハムと一緒に挟んだサンドイッチ。加熱するなら、温野菜と食べるチーズフォンデュ、トマトの入ったチーズ鍋など。味噌や醤油との相性も抜群なので、アレンジは無限大です」
5.「 東京ブッラータ」──ナイフを入れれば、生クリームがあふれ出す。
東京・渋谷に工房を構えるCHEESE STANDのコンセプトは「街にできたてのチーズを」。多摩エリアの牧場から届くミルクを原料に、毎日手づくりする。主力はフレッシュタイプのチーズで、東京ブッラータもそのひとつ。生クリームと繊維状にカットしたモッツァレラを、フレッシュなモッツァレラ生地で巾着状に包んだ個性派だ。
「生地にナイフを入れると、中からじゅわ~っと生クリームがあふれ出します。やや弾力のある食感、そして口に広がる穏やかな酸味にクリームの甘みが絡まって、幸せな気持ちになります」と圓子さん。食べ方は、塩とオリーブオイルをかけてシンプルにいただくのがスタンダード。「あとはトマトや生ハム、バルサミコ酢、ハーブを添えて。トマトの代わりに桃やブルーベリーなど旬のフルーツを使ってもいいでしょう。食べる直前に生地をカットすると見た目もよく、食材全体がクリーミーになり新たな味わいが楽しめます」