東京都にある11の島々からなる「東京宝島」。そのほぼ中央に位置する神津島では、都内でありながら、全国でもトップクラスの星空が1年を通して楽しめる。夏の賑わいとはひと味違う島の魅力を見つけに、春の神津島を訪れた。
竹芝埠頭から夜行客船で約10時間、調布飛行場から飛行機で約45分の距離にある「東京宝島」のひとつ・神津島。およそ20㎢の小さな島には、美しい海はもちろん、四季折々の草花が楽しめる山々、温泉をはじめとした観光施設が揃う。夏にはダイビングや釣り、ハイキング、キャンプなどのレクリエーションを求めて多くの観光客が訪れる。しかし、島の魅力は夏だけではない。神津島では、東京にいながら全国でもトップクラスの星空が、1年を通して楽しめるのだ。
神津島の星空が、全国トップクラスである理由。
神津島で全国トップクラスの星空を見られる理由のひとつに、島の“暗さ”がある。島内には集落が一カ所しかなく、住民はわずか1900人弱。他の地域と比べて街灯などの星空を邪魔する明かりが分散しておらず、夜空を楽しみやすいという。
神津島村は、この美しい星空を見られる環境を次世代にも遺したいと、2020年1月、星空保護のための条例を施行。灯具提供メーカーと地元電気業者の協力のもと、島内の街灯・防犯灯を、夜空に光が漏れにくい電球色のものに変更し、暗く美しい星空を保護する取り組みを評価する国際認証「星空保護区認定」に申請する予定だ。取り組みを進める村役場の小川徳柾産業観光課長は、「夜間の明るすぎる光は、星空だけでなく、海中の魚や島に来る渡り鳥など、神津島の豊かな生態系にも影響を与えかねない。私たちにとって、空を見上げたら満天の星が広がっているのは当たり前のこと。その当たり前を、次の世代の子どもたちにも伝えていきたい」と話す。
村を挙げて守られている神津島の星空。その楽しみ方はさまざまで、夕暮れの街をのんびり散策したのち、地ビールでのどを潤し、星空を眺めながら宿に帰るもよし、自然の岩場を利用した露天風呂で“自然のプラネタリウム”を眺めるもよいだろう。なかでも、神津島の星空初心者に勧めたいのが、島民ガイドによる星空ツアーだ。神津島では観光協会が17年に住民を募り、島民星空ガイドを養成。季節の星や星座の探し方などを教えながら神津島の星の魅力を発信する、さまざまなツアーを展開している。
島民星空ガイドのひとり、古谷亘さんが代表を務める「Full Earth」では、本格的な天体望遠鏡を用いたスターウォッチングツアーを開催する。集落から少し離れた三浦湾展望台や赤崎遊歩道といったスポットまで赴き、集落とはまた違った暗闇と、そしてそこから見上げる明るく、美しい夜空が楽しめる。「神津島では、天候などの条件が揃うと、星座をつなぐのが難しいくらいたくさんの星が見えますよ」という古谷さん。その言葉通りの神津島の星空は、絶景と呼ぶのにふさわしい。
潮騒と風の音を聞きながら、自分の誕生月の星座を探してみたり、流れ星に歓声をあげてみたり――。オフシーズンの神津島は、大人が童心に戻れる贅沢な時間を提供してくれる。
東京宝島とは
太平洋に浮かぶ東京の11の島々の宝物を掘り起こそうと、東京都が中心となって進めるプロジェクト。各島の自然環境、風土、名産品、歴史など島の“宝”を掘り起こすため、職種や年齢を超え、島内のメンバーが集結。アイデアを出し合い、島外の視点も取り入れるなど、さまざまなアプローチで島の魅力を発信している。