植物由来の成分を肌と鼻で感じる、自然なつけ心地と香り。ダークブラウンのボトルで統一された、インテリアのようなパッケージ。アートギャラリーのごとく、ストイックな内装の店舗。「イソップ」は対象を女性に限定しない、ユニセックスな世界観を持つブランドだ。中心的なラインアップはスキンケア製品である。日本では2010年に東京・青山に初の直営店を設け、商業施設内にも店舗を構えてその数を増やし続けている。
2019年11月に刊行された『イソップ:ザ ブック』は、ファッションブランドのようにカルチャーを発信する彼らの、創業からの33年間を辿る大型本である。336ページにも及ぶボリュームで、美しい写真とともにエピソードの数々が語られている(現在は英語版のみ)。出版元はビジュアルブック制作で名高いアメリカの「リッツォーリ ニューヨーク」。サンドベージュ色のリネンによる装丁で、所有する満足度も高い一冊だ。
日本での発売を記念して、創業メンバーのひとりであるスザーン・サントス(以下、スザーン)が来日。イソップが築いてきたスタイルについて語った。まずは本の出版に至った経緯から紐解いてもらおう。
「きっかけは、リッツォーリ ニューヨークから『出版したい』という熱烈なリクエストがあったことです。創業から33年という、創業者のデニス・パフィティス(以下、デニス)が好む数字とタイミングが合致したことも理由のひとつでした」
デニスは1980年代にオーストラリア・メルボルンでヘアサロンを経営していた。イソップのスタートは、彼が追い求めたヘッドケア製品の開発からだった。当初から植物がもつ力に着目し、植物由来のオイルを原料にした。いまに至るまで大切にしているのは、“機能ありき”の考え方だ。
「イソップの自然な香りに惹かれて興味をもってくださる方が多いようですが、実は私たちは香水を除きどの製品でも、香りを意識して開発することはありません。他社が香りを前提に開発しているのと比べると、珍しいやり方でしょう。大事なのは肌に効果のある中身そのもの。香りは結果としてオマケでついてくるのです。自然界には素敵な香りがあふれているから、イソップの製品もいい香りに感じられるのでしょう」
イソップの魅力はハーブ系の香りにあり、と思う人には、意外な成り立ちかもしれない。
製品や店舗デザインを通して、顧客に伝えたい世界観とは。
どの部屋、どの空間にも馴染むシンプルなパッケージデザインについてはどのような考えをもっているのだろうか。
「イソップのスタイルは、創業者のデニスの世界観に基づいています。製品ラベルの色からオフィスの色に至るまで、ヘアサロンの時代から続いているテイストです。彼はデザインする能力に自信があった人なんですよ。そしてボトルの中身にも自信を持ってきました。決して何かをコピーすることなく、自らが生み出すクリエーションを続けてきました。だからイソップを真似する人たちはいても、誰も私たちにはなれなかったのです」
スザーンが言葉を続ける。
「イソップには目立つことを好まない会社の文化があります。皆さんにもミステリアスな印象を与えていると思います。リッツォーリ ニューヨークが本の出版を望むほど興味を掻き立てられた理由も、弊社のそんな姿勢にあるようです」
イソップのアーティスティックなブランドイメージには、各国の一流の建築家やデザイナーが手がける店舗の役割も大きい。日本の店舗づくりも、シンプリシティ、トラフ建築設計事務所などが行っている。店舗を国ごとにローカライズするやり方も、イソップの個性だ。
「どの国にも違った価値観があり、才能のある人がたくさんいます。彼らと一緒に働かない理由はありませんよ。店舗設計を発注するときは、『イソップ:ザ ブック』ほどもある分厚い資料を相手にお渡ししています。地域環境を大切に考え、店がどこにあり、どんな人たちと関わるかを調べて、その土地に馴染むようにデザインしてもらいます。使うマテリアルも無駄をなくし、サステイナビリティも忘れずに。これらは創業当初から続けていることです」
スザーンの話から見えてきたのは、イソップが深い理念と先見の明をもつ会社だということ。33年経っても軸をしっかりと保ち、その軸をより太く強固にしようとしている。ナチュラル志向と社会意識の高さという時代のトレンドに先駆けたイソップの歴史には、これからのブランドや会社が進むべき道のヒントが隠されているかもしれない。
『イソップ:ザ ブック』
ジェニファー・ダウン/デニス・パフィティス 著
山本 豊 撮影
ダン・ガン 編集 リッツォーリ ニューヨーク (Rizzoli New York)
9,515 円(税込)
世界各国のイソップ直営店、オンラインストアにて発売中
問い合わせ先:イソップ・ジャパン
TEL:03-6434-7737
www.aesop.com