ここは、愛知県豊橋市のフォルクスワーゲン グループ ジャパン本社敷地内のインポートセンター。2019年10月末、年に一度のクラシック・フォルクスワーゲンの祭典「ストリート・フォルクスワーゲン・ジャンボリー2019」が開催された。約600台のクラシック・フォルクスワーゲンが展示されたほか、新旧のフォルクスワーゲン約2000台と約5000人の来客を集める大規模なイベントだ。
ていねいに手入れをされた「フォルクスワーゲン・ビートル」が無数に並んでいるのは、心温まる光景だった。率直に言って、ビートルは高額で取引されるヒストリックカーではない。それがこんなに大事にされているということは、損得を超えて愛情を注ぐ対象になっているということだ。
うっかりビートルと書いてしまったけれど、正式名称は「フォルクスワーゲン・タイプ1」。本来の名前よりニックネームが有名になっていることも、このクルマがいかに愛されていたかの証だろう。クルマというより、ペットに近いのかもしれない。
会場には飲食やショップのブースが並び、ステージでは音楽が演奏されてとても賑やか。さながら“ビートル・フェス”の様相だ。さまざまなモディファイが施されたビートルをのぞきこんだり、オリジナルの状態のビートルに感心していると、あっという間に時間が経ってしまう。あたりまえではあるけれど、1台として同じ状態の車両はなく、それぞれに愛情が注ぎ込まれているから、じっくり見ているといくらあっても時間が足りない。
新型のザ・ビートルも、2019年に生産と販売が終了。
ここで簡単にビートルの歴史を振り返っておくと、このクルマを開発したのはフェルディナント・ポルシェ博士。ポルシェの創始者として知られる博士は、実はダイムラー・ベンツの技術部長を務めていた時期がある。この時に、上層部に大衆のためのコンパクトカーを提案したところ却下されたため、ダイムラー・ベンツを辞してビートルを開発したという経緯がある。
戦後間もなく量産が始まったビートルは、最終的に累計生産台数2000万台を超えた。ビートルに替わってフォルクスワーゲンの主力車種となったのが、1974年に登場したゴルフ。輪廻転生というか、おもしろいもので1998年には4代目ゴルフをベースに、ニュービートルという名称でビートルが復活する。そして2011年にモデルチェンジを受けて登場したザ・ビートルだが、ついに2019年7月、生産終了の日を迎えた。
「ストリート・フォルクスワーゲン・ジャンボリー」の見学を終えてから、“最後のビートル”に試乗する機会を得た。
オリジナルのビートルの試作車が完成したのが1936年、量産モデルの生産が始まったのが46年。約80年にわたる歴史が幕を閉じるのか──。少しセンチな気持ちで走り出したけれど、ザ・ビートルはきびきびと走るよく出来たコンパクトカーで、感傷的な気分を吹き飛ばしてくれた。驚くほど高級だとか、感動するほどの高性能というわけではない。けれども、使う人の身になって真摯につくられていることが、よく伝わってくる。
オリジナルのビートルが空冷エンジンを車体後部に積んで後輪を駆動していたのに対し、ザ・ビートルは水冷エンジンをボンネットの下に収めた前輪駆動車。だからレイアウトは正反対だ。けれども、市井の人々の生活に寄り添うクルマづくりという点は変わらない。
これからフォルクスワーゲンは、新型「ゴルフ」や電気自動車「I.D.3」などが主力のモデルとなっていく。フォルクスワーゲンの“国民車”がどのように進化していくのか、多いに期待したい。
フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」
●サイズ(全長×全幅×全高):4285×1815×1495㎜
●エンジン形式:4気筒SOHCインタークーラ―付きターボ
●排気量:1197cc
●最高出力:105PS/5000rpm
●最大トルク:175Nm/1500-4100rpm
●車両価格:¥2,450,000(税込)~
●問い合わせ先/フォルクスワーゲン カスタマーセンター
TEL:0120-993-199
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