夜の無人島をさまよう、暗闇のアートプログラム。東京湾に浮かぶ猿島で感覚を研ぎ澄ませ。

  • 写真・文:中島良平
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暗闇に吸い込まれていくように猿島という名の立体迷路を歩いて進み、各ポイントでアートと出会うある種の探検イベント。

東京湾に浮かぶ唯一の自然島、猿島。かつて要塞として利用されたこの無人島で、夜のアートプログラム『SENSE ISLAND -感覚の島- 暗闇の美術島』がスタートした。ライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一がプロデューサーを務め、12組のアーティストが参加する。

夕暮れ、日露戦争で旗艦を務めた戦艦「三笠」が保存公開されている三笠公園の桟橋で受付を済ませ、猿島へ向かう船を待つ。『SENSE ISLAND』のプログラムは、この時点でもう始まっている。やがて夜の海を進み、風と夜気を感じながら猿島へ。所要時間は10分ほどだが、猿島の桟橋に降り立つと日常から切り離された空間にやってきたことを感じる。夏期限定で海水浴場としてオープンする砂浜には、暗闇に色とりどりの光線が飛び交う。対岸に煌めくのは横須賀の街の光。夜間の屋外イベントだからこそ、海の漆黒と遠くの横須賀の街が作品の借景となる。

暗い島の中へと進んでいく。赤レンガが積み上げられたかつての要塞や兵舎の跡がそのまま残る切り通しを歩いていくと、江戸時代の人々が外国からの襲来に対抗しようと、この島を東京湾の砦として考えていたという話を、ぼんやりと昔話のように思い出す。道の向こうに目を凝らしながら、頭の中で記憶や想像が浮かび上がったり、耳から入ってくる音に対して敏感になったり、普段よりも自分の感覚が研ぎ澄まされている実感が確かにある。

島の中はさながら立体迷路だ。一寸先も見えない真っ暗闇を進むトンネルがあれば、深い森の闇、海岸に降りていく長い階段、不意に現れる砲台や神社の跡もある。コンセプチュアルな何かを求めて訪れるべきではない。この深い自然に対抗しうる強度をもつ作品のみが存在し、アートが暗闇と響き合って感覚の解放へと誘ってくれる。開催日数は限られている。この特別な夜の体験に興味があれば、迷わずに夜の三笠桟橋へと向かってほしい。

博展『prism』 猿島の桟橋に到着し、最初に砂浜で遭遇する光の作品。対岸に見えるのは横須賀の街の夜景。

初日、要塞だった頃に建造されたトンネル内で、鳳笙奏者の井原季子らによるパフォーマンスが行われた。

菊池宏子『地球交響楽団』 「あらゆる感覚を解放し 一瞬でもいいから、時を忘れて 原始の姿を体感する(後略)」と書かれたパネルが立ち、ヨガマットに寝転んで空に包まれることも、聴診器をあてて大地の鼓動を聞くこともできる体験型作品。

鈴木康弘『遊具の透視法』 回転する遊具「グローブ・ジャングル」に、実際に遊ぶ子どもたちの姿が投影されるインスタレーション作品。各地で展示されてきた人気作品も、猿島の暗闇で見るとまた違った印象。

SENSE ISLAND -感覚の島- 暗闇の美術島
開催期間:2019年11月3日(土)〜12月1日(日)
開催場所:猿島公園
神奈川県横須賀市猿島1
TEL:03-3406-0188
開場時間:17時30分〜21時30分
※三笠桟橋発 猿島への特別便
1便17時30分発、2便18時45分発、3便19時30分発、4便20時発 
休業日:月、火、水
入場料:一般¥3,500、横須賀市民大人¥1,850
※乗船料含む
https://senseisland.com