パリとチュニジアのチュニスを拠点に活動するアーティスト、イズマイル・バリーの個展が銀座メゾンエルメス フォーラムでスタートした。人の身振りと結びつき、光と陰の関係、水や砂の物質性など、あらゆる事象への興味から行なった実験を出発点として静謐な作品を手がけるバリーは、展覧会を「大きな木も小さな木も植えられ、枯れた花があれば芽吹いたばかりの草も生えているひとつの風景」と説明する。
「私は物事を観察する。物事が生じるがままに注意を向け続けていると、そこには何かが立ち現れる。偶然によって驚きが生まれ、その驚きを伝えようとした結果が作品となる。つまり、作品を生み出すために計画を立てるのではなく、何かが起こった結果として作品が生まれる。作品を作ることよりも、“何かをする”行為そのものに興味があるんだ。庭師が木を剪定して、結果として庭の景色が生まれるような感覚に近いのかもしれない」
『出現』というタイトルの映像作品が展示されている。真っ白な光を放つ紙を両手で操る様子が映されている。薄暗い空間に光が浮かび上がる美しい作品だ。やがて、それが1枚の写真だということがわかる。手が写真の裏側に置かれたとき、光の透過が遮られて影が生まれ、写真のイメージを見て取ることができる。そして、裏にはアラビア語の文字で何かが書かれている。
「この写真は1956年3月20日、チュニジアが独立を果たしたその日に撮影された。チュニジア人である私の父親が、大切にして欲しいと言って私にくれたものだ。この写真に光をあてながら観察を続けていたら、強い光を受けて真っ白になり、画像が飛んでしまうことがわかった。それを撮影したのが『出現』だ。手に触れて真っ白な光からイメージが現れる様子が、忘却から記憶が蘇るような現象だと思えて興味を惹かれたんだ」
実験から気持ちが高ぶり、思考が展開していくプロセスが作品に刻まれる。
写真に光をあてる行為から『出現』が生まれたように、何かと何かを関係させることに関心を持ち、そこに何が起こるのかを観察する。身の回りにあるつまらないものでいい。雑誌の広告1ページを手で揉み続けるとどうなるか。水滴を脈動する肌に垂らすと何が見えるか。砂の上でボールを転がすとその痕跡がどうやって描かれるか。
「平凡なもの同士の関係から何かが起こるのではないか。私は驚きや発見を求め、それを作品にすることで驚きを伝えようとしている。だから即興的にその場の行為がすぐに作品になったものがあれば、行為で得た発見をより明確に伝えられるように、撮影方法を改めて考えて映像化した作品もある。実験や体験から自分の気持ちが高ぶり、そこから思考が展開していくプロセスにいつも興味を持っている」
美しいイメージ。静かな移ろい。何かが起こる予感。イズマイル・バリーの作品は鑑賞者をドキドキと、そしてうっとりとさせる。
『みえないかかわり|イズマイル・バリー展』
開催期間:2019年10月18日(金)〜2020年1月13日(月・祝)
開催場所:銀座メゾンエルメス フォーラム
東京都中央区銀座5-4-1 8F
TEL:03-3569-3300
開館時間:11時〜20時(月〜土) 11時〜19時(日)
※最終入場は閉館の30分前まで
※12月12日(木)〜25日(木)は開館時間11時〜16時30分(最終入場16時)
会期中不定休
会期中入場無料
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