近年、台湾では斬新なデザインで攻める建築が増えています。建築事情に精通する「都市探偵」こと李 清志さんに、一見の価値のある現代建築を解説してもらいました。
李 清志(リー・チンズゥ)●1963年、台北市生まれ。臺灣大學で建築を学んだ後、米ミシガン大学に留学。實踐大學専任副教授として教鞭を執りつつ、「都市探偵」を名乗り、世界の都市空間を研究。近著に東京の建築を解説した『東京未來派 都市偵探的東京觀察A to Z』 (時報出版刊)がある。
その1. まるでCGのような二重螺旋状の超高層マンション、陶朱隱園。
DNAの二重螺旋構造を思わせる、ぐにゅっとひねったような形状で、外側に向かってせり上がるように突き出した左右のウイング。そのアンバランスさはCGの世界かと疑いたくなるほど。台北101からほど近い、台北きっての開発エリア・信義區に登場した超高層マンション「陶朱隱園(タオジュゥーインユェン)」は、その近未来的なデザインと環境に配慮した設計で海外からも注目されています。
その2. 波打つような錯覚をもたらす海辺のリゾートマンション、一森原(Taipei Ocean Horizone)。
一方、少しずつ大きさを変えたバルコニーを多数つなげることで全体を波打つようにデザインした「一森原(イーセンユェン)」。海藻が靡くようにも見えるこちらは、淡水の海辺に立つリゾートマンションです。いま台北では、こうしたポストモダン建築が次々と建設されています。
「台北では新築住宅の価格が高騰し、オリジナリティやデザイン性を強調した建物でないとなかなか売れません。大規模な公共建築が減っていくなか、前衛的なデザインの建築が住宅やオフィス向けに造られています」
そう語るのは、台湾で「都市探偵」の異名をとる李清志。台北の實踐大學で教鞭を執るかたわら、世界各地の建築や都市文化について雑誌に寄稿したりラジオ番組でナビゲーターを務めたりしています。そんな彼に「台湾で見るべき現代建築」について尋ねたところ、教えてくれたのが前述の2件。
他にも気になっている建築があるといいます。ひとつは、平田晃久が設計を手がけた中山北路の集合住宅「富富話合(フーフーホァハァ)」です。
その3. 樹木のように風が通り抜けるバルコニー、富富話合(Taipei Roofs)。
「建物から突き出たテラスが、山の斜面に植えた樹木のように見えるでしょう? 都会にいながら、通り抜ける風や、緑などの自然を感じられる。台北市の中でも一等地に、これだけ贅沢な空間の使い方をするなんて、ひと昔前では考えられなかったことです」
その4. 石をモチーフにしたエコな壁をもつオフィスビル、砳建築(Lè Architecture)。
もうひとつが南港軟體園區の近くに位置するオフィスビル「砳建築(ラァ・ジィエンズゥー)」。
「映画『千と千尋の神隠し』に登場するカオナシにそっくりだと話題になりました。従来のオフィスビルの概念を打ち破る特色ある設計で、機能性よりもここを拠点とすることで得られる企業イメージを売りにしています。富富話合もここも、環境に優しくエコを重視した設計になっているのが特徴です」
いま見るべき、“攻め”の公共建築は?
その5. ガジュマルの樹の下に集う世界最大級の芸術発信基地、衛武營國家藝術文化中心(National Kaohsiung Center for the Arts)。
「公共建築の分野では、レム・コールハース率いるOMA設計の『台北パフォーミングアーツセンター』が完成間近とされ注目されていますが、地方都市に目を向けると、宜蘭を拠点にするフィールドオフィス・アーキテクツの黄聲遠が、台湾らしさや地域性を意識した建築で評価を集めています」
そう語る都市探偵が最新の公共建築として挙げたのが、高雄の「衛武營國家藝術文化中心(ウェイウーイン・ゴォジャーイーシュウ・ウェンホァゾォンシン)」。起伏のある曲線の大屋根の下に、オペラハウスやコンサートホールといった施設がつながるように集積した、世界最大級の舞台芸術センターです。設計したのはオランダのメカノー・アーキテクテン主宰の建築家、フランシーヌ・ホウベン。台湾でよく目にするガジュマルの樹群からインスピレーションを得たといいます。
「台湾の公共建築は外国人による設計が少なくないです。衛武營國家藝術文化中心を手がけたのはオランダ人建築家ですが、日本人建築家も人気があります。日本もオランダも台湾の歴史上、かかわりのある国。そこがなにか影響しているとしたら興味深いですね」
その6. 台南の強い陽光が山頂を模した傘から降り注ぐ、臺南市美術館二館。
確かに、台湾には坂茂の「臺南市美術館二館(タイナンシィメイシュウグァン アーグァン)」や伊東豊雄の「臺中國家歌劇院」をはじめ、日本人建築家の作品が多く見られます。
「日本は保守的な面もあり、前衛的な公共建築を造るのは難しいと聞いています。日本人建築家による台湾での作品の一部は、実験要素を含めた挑戦でもあり、そして台湾にはそれを受け入れる土壌があるのです」
李が薦めてくれた6件の現代建築は潔いまでに“攻め”たもの。台湾を訪れるならぜひ巡ってみましょう。
こちらの記事は、2019年Pen 6/15号「台湾、発見。」特集からの抜粋です。