2018年9月にスイス・バーゼルで初開催された、デザインと建築をヴィンテージカーに融合させた新イベント「グランドバーゼル」。エントランスでビジターを迎えたのは、天才建築家ジオ・ポンティによるかわいらしい水色のクルマだった。20世紀のイタリアを代表する天才建築家は当時、未来のクルマを見据えていたのだろうか?
設計図だけではなく、量産まで模索していた。
ジオ・ポンティは、工業デザイナーとしてもその手腕を発揮した。名作となった椅子「スーパーレッジーラ」など数々の傑作デザインを残すが、その才能は、クルマにも向けられた。彼によるビルや家具と同じダイヤモンド形のモチーフを採用した「リネア・ディアマンテ」の設計は1953年のものだ。
設計図を描くだけでなく、クルマの量産をも視野に入れていた。その機構にはアルファロメオ初の普及モデル「1900」を選択。ボディは軽量構造で有名なカロッツェリア「トゥーリング」に白羽の矢を立てた。さらにフィアット社での生産まで模索していた。しかし戦後モータリゼーションの真っただ中のフィアットは、大衆車の生産に追われており、“ポンティのクルマ”は実現しなかった。
今回のグランドバーゼルではこの幻の車両を再現するプロジェクトが立ち上げられた。実際に担当したのはフィアット・クライスラーの「F
CAヘリテージ」である。主導したロベルト・ジョリートは、ポンティの孫と研究をスタートした。
現存する資料はきわめて限られていた。だがそこから得られるディテールをひたすら忠実に再現していった。たとえば側面窓は一見フラットだが、じつは微妙な2次元曲面が与えられている。「一点一点スケッチを確認するたび、私たちは次の作業に導かれていった」とジョリートは回想する。
結果として完成したモックアップは「アート、デザインそして建築の視点からクルマを再発見する」というグランドバーゼルの趣旨にふさわしい作品となった。
20年先のスタンダードを、既に見据えていた先進性。
こちらの記事は、Vマガジン Vol.01「グランドバーゼル&ペブルビーチ徹底取材 ヴィンテージカーの新潮流。」特集からの抜粋です。気になった方、ぜひチェックしてみてください。アマゾンで購入はこちらから。