ミレニアル世代、SNSのバズ、インフルエンサー、ストリート、ハイ&ロー……。現在のファッションの最前線では、こうしたキーワードが飛び交っています。上品な高級品に皆が憧れた時代とは目線が異なる、サブカルチャーに根ざした若い世代による新たな価値観が、急速に世界中に広がっているのです。この動きに方向を定め、大きく舵を切ったのが、スウェーデンの大手家具メーカー、「イケア(IKEA)」。若者を熱狂させ、“バズる” ファッションデザイナーのヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)と手を結び、新コレクション「マルケラッド(MARKERAD)」を誕生させました。ヴァージルのクリエイションとは果たしてどのようなものでしょうか。東京で開催された特別イベント「“STILL LOADING”」を通じて、その発想の源を探ります。
実はマルケラッドの販売は、2019年11月と約1年も先のことです。2018年9月のパリに続き、東京でもプレローンチとして、12月15日のこのイベントでお披露目されました。製品化が予定されているのは、テーブル、ベッド、椅子、収納棚、スタンドミラー、壁掛け時計など、生活空間を形づくるラインアップです。イメージされたのは、「ミレニアル世代の初めての一人暮らし」。お金をもたず、小さな部屋に住む現代の若者が好むアイテムが考えられました。このターゲット層の獲得に、ヴァージルはうってつけの人物といえるでしょう。
大学で建築を学び、カリスマ的な人気ラッパーのカニエ・ウエストの活動に関わり、高価格帯なストリートブランド、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー™(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™)」を立ち上げて大ヒットさせた彼。プレミアムを生み出す才覚に着目した「ルイ・ヴィトン」は、2019年春夏シーズンより、彼をメンズのアーティスティック・ディレクターに任命。名実ともに、モード界のトップの仲間入りも果たしました。いまやヴァージルは、ダイバーシティ(人種や世代などの多様性)の象徴ともいえるクリエイターになったのです。
一般公開に先駆けたメディア向け内覧会のトークショーで、来日した彼が語りました。
「イケアの魅力は、より多くの人に届けられる民主的(デモクラティック)な製品にあります。ファッション、音楽、アートは、20代前半の若者のためにあると私は考えており、マルケラッドもミレニアル世代に向けてつくりました。自分が初めて音楽CDを買ったときの気分、最初に家具を買ったときの印象を思い描きました。今回の家具は、彼らが愛するスニーカーと同じ価値をもつはずです。さらに、単なる家具ではなく、ユーモラスなアートピースでもあるのです」
ヴァージルの“声”を込めた、4種のラグを発表。
2019年の本コレクションに先駆けて、4種類の大判ラグが特別にデザインされました。抽選によりこの会場で100枚、その後にイケア各店舗で900枚を販売した数量限定品です(パリでは9月に発売済)。自身のブランドの服や、「ナイキ」とのコラボスニーカーでもヴァージルが好んで用いる、ロゴや英単語がここでもデザインの軸になっています。こうした言葉を使う発想の根底について彼に質問すると、すぐに答えが返ってきました。
「今回のコラボ製品では、ラグに“声” を与えたかったのです。私はいろいろな文化を見聞きし、分析することにすごく興味があります。人の声を聞くことでコミュニケーションが発展しますから。このラグには、私の声を込めました」
さらに、ルイ・ヴィトン、イケアという、一見すると対極とも思えるブランドと関わる意味についても尋ねました。
「お互いは違うように見えて、実は共通する要素が多いです。まず、どちらもビッグブランドですね。そして、彼らはモノづくりに自信を持っています。クラフツマンシップがある点も両者は同じです。私としても、どう仕事すればいいかが明確です。どう洗練させるか、どう民主的にするかを、地に足をつけて行うことができるコラボ相手といえるでしょう」
ブランドとデザイナー、ブランド同士といったコラボが一般的に目指すものは、相互効果にあります。互いにプラスに働き、市場も盛り上がれば、産業全体の活性化にも繋がるでしょう。イケアとヴァージル・アブローの蜜月な関係により誕生していく、手に届きやすい価格帯の革新的な製品に期待が膨らみます。
“STILL LOADING” 特設サイト
https://m.ikea.com/jp/ja/pages/campaigns2019/stillloading/