アメリカでヒットを記録したホラー映画『イット・フォローズ』が日本でも話題となり、いま要チェックの監督、デヴィッド・ロバート・ミッチェル。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』は、低予算映画で高い評価を得てきた監督が好き放題撮った感のある痛快な一本です。舞台は、ロサンゼルスのシルバーレイク。夢を抱いてこの街にやって来たはずが、何者にもなれないまま宙ぶらりんな日々を送るオタク青年、サムの物語です。
仕事もなく家賃を滞納しているサムが恋したのは、隣に住む美女。順調にデートの約束をしたものの、翌日彼女は忽然と姿を消してしまいます。サムは女の正体と行方を追いかけるうち、この街に隠された暗号の存在に気づき、その解読にのめり込みますが……。サムが目にする映画や広告、音楽、ポップカルチャーのすべては、視点を少しズラせば謎を解くためのヒントになっていきます。壁に描かれた記号、大富豪や映画プロデューサーの謎めいた死、真夜中の犬殺し、それらはつながっているのか、それとも――?
都市伝説をめぐる描写には、陰謀論やオカルトを愛する人に刺さる面白さも。監督が敬愛するヒッチコックへのオマージュが随所に見られ、リンチの『マルホランド・ドライブ』の妖しいムードをサイケデリックに再解釈したような世界観は、居心地が悪いのに迷い込まずにはいられない酩酊感と中毒性に満ちています。そしてなによりも胸をざわめかせるのは、果てしない夢を見て、もがき、やぶれた者たちの亡霊の気配。デビュー作では青春群像劇を、続く2作目では青春ホラーを撮った監督が、この映画で描き出したのは「青春の終わり」かもしれません。足踏みばかりしている人生を「何か」のせいにする、そんな季節の終わりを見つめたサスペンスです。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』
監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ、トファー・グレイスほか
2018年 アメリカ 2時間20分
10月13日より新宿バルト9ほかにて公開。