戦後間もない銀座で、借り物のカメラを手に活動していた写真家・林忠彦。おもな作品発表の場は、質の悪い密造酒・カストリ焼酎に例えられた、発行しては廃刊していく大衆娯楽雑誌「カストリ雑誌」(3合=3号でつぶれることに由来)。けれども大衆の支持を受け、彼は一躍、人気写真家となっていきます。そんな林の生誕100年を記念して、2018年7月31日まで、『昭和が生んだ写真・怪物 時代を語る林忠彦の仕事』展がフジフィルム スクエアで開催されています。
5月31日まで開催されている第1部では、焼け跡から復興する力強い日本の姿を、あらゆる被写体を通じてモノクロで描き出した作品がメイン。なかでも注目すべきなのは、上に掲げた太宰治のポートレート。作家・織田作之助を追って銀座のバー「ルパン」を訪れた林は、織田と同席していた太宰に「俺も撮れよ」と声をかけられます。1個だけ残っていたフラッシュバルブを使い、ワイドレンズがなく引きもない場所だったので、便所のドアをあけ便器にまたがりながら撮影したというこの作品は、太宰治を象徴する一枚となりました。しかしこの写真、実はトリミングされたものだということはあまり知られていません。雑誌掲載時に切り取られた、坂口安吾の背中が写っているプリントは、日本初公開となります。
6月1日から7月31日まで開催される第2部は、晩年の作品群に焦点を当てたもの。名作小説の舞台を訪れ、その景色を切り取った写真集『小説のふるさと』を1957年に発表。それを皮切りに、人物を写さずとも人間の存在を匂わせ、ストーリー性を備えた独自の世界を生み出すことに成功した林は、日本文化の原風景を追いかけるようになりました。撮影技術の粋を極めて、色鮮やかに写し取られたシリーズ『茶室』。癌を宣告され、脳内出血で半身不随となりながらも、失われつつある江戸の面影を残したいという思いからライフワークとして完成させた『東海道』……。晩年の作品群から、厳選されたカラープリントの数々が展示されます。
初期と晩年で、がらりと作風が変わっているように見える林。しかし、その作品を観ていると、「写真は記録だ」という信念が一貫していることに気づかされます。昭和という激動の時代を、情感を込めて一枚いち枚、しっかりと焼き付けてきた彼の”記録”を、お見逃しなく。
『昭和が生んだ写真・怪物 時代を語る林忠彦の仕事』
開催期間:第1部:2018年4月1日(日)~5月31日(木)
第2部:2018年6月1日(金)~7月31日(火)
開催場所:フジフイルム スクエア
東京都港区赤坂9-7-3(東京ミッドタウン・ウエスト)
TEL: 03-6271-3350
開場時間 : 10時~19時 ※入場は18時30分まで
会期中無休
入場無料
http://fujifilmsquare.jp