伝説的フォークシンガー、高田渡のライブを収めたドキュメンタリー映画「まるでいつもの夜みたいに」にご注目ください。

  • 文:赤坂英人
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高田の風貌から、枯れた歌を想像するが、実際の彼の歌の世界は、張りのある声で歌われる強烈なものばかり。戦前のプロレタリア文学を感じさせたり、戦前から受け継いだ近代詩を歌うものもあり、多彩を極める。その世界の深さはボブ・ディランに引けをとらない。もっと再評価されるべき存在である。©スコブル工房

音楽ファン、また現代詩のファンにはたまらない映画が公開されます。伝説的フォークシンガーといわれた高田渡さん(1949-2005)。彼の死の直前、2005年3月27日の東京でのラストライブを記録したドキュメンタリー映画が公開されるのです。題名は『まるでいつもの夜みたいに』(監督・代島治彦)。

高田渡さんは、1949年岐阜県の生まれ。13歳でアメリカのフォークシンガーのウディ・ガスリーやピート・シガーに興味を持ち、1968年に「自衛隊に入ろう」を歌い鮮烈にデビュー。以後、独特の飄々とした雰囲気を漂わせながら、辛らつで鋭いメッセージを秘めたフォークソングを歌いました。そしていまなお、世代を超えた人気を誇る存在です。

映画は高田さんが長年住んだ三鷹のアパートから、公演場所である高円寺の居酒屋に向かうところから始まります。そして狭い会場での語りながらのギター一本の単独ライブがスタートします。一曲目の「仕事探し」から、ラスト、いつもの「生活の柄」ではなく「夕暮れ」までの全14曲。彼自身の詩を歌う曲も素晴らしい。また、金子光晴、谷川俊太郎、黒田三郎、菅原克己、マリー・ローランサン、ラングストン・ヒューズをはじめ、詩人の有名無名を問わず、彼にしか歌えない詩と歌ばかり。そこには、高田渡が歌う人生の喜怒哀楽を超えた詩があります。まさに高田渡は、不世出の吟遊詩人だったと実感させるライブです。

彼はこのライブの撮影の直後、旅先の北海道で急逝しました。56歳でした。高田さんの息子でミュージシャンの高田漣さんはこう言っています。「高田渡にとってライブは、それこそ吉祥寺の立ち飲み屋にいる時と同じ日常であった。その日もいつものように高田渡は歌い、夜の街に消えていった。いまも僕らの知らない土地で歌っているのか、飲んでいるのか。今日もどこかで父は冗談話をしているに違いない。悪戯な笑顔とともに」

映画の中で歌われる「仕事探し「鎮静剤」「ブラザー軒」「コーヒーブルース」「夕暮れ」などは絶品である。©スコブル工房

『まるでいつもの夜みたいに』

監督/代島治彦
出演/高田渡、中川イサト、中川五郎ほか
2017年 1時間14分
制作・配給/スコブル工房
UPLINKにて上映中、以降公開予定は公式サイトを参照。

www.takadawataru-lastlive.com/