世界中から観光客が集まる魅惑の首都パリ。そこはいまだ19世紀の面影を残し、多くの美の殿堂を擁して歴史と現在をつなぎます。セーヌ川を中心に左岸と右岸に広がるこの街の景観の骨格は、第二帝政期、時の皇帝ナポレオン3世の下、1853年にセーヌ県知事に就任したオスマン男爵により推し進められた「パリ大改造」で形成されました。「パリの外科手術」とも呼ばれるこの一大改造が、万国博覧会のブームに乗るヨーロッパを代表する近代都市パリを生み出したのです。それは、都市に住む人々の意識を変え、生活を変え、遊興のあり方も大きく変えて、印象派に象徴される画家たちによって、新しい表現の新しいモティーフとしても描かれていきました。
政治的にも、文化的にも一大変革をもたらした、この「パリ大改造」以前・以後の姿を、目で見る豊富な資料や作品で追う展覧会が練馬区立美術館で開催されています。『19世紀パリ時間旅行』と題された内容は、フランス文学者で、この時代の風俗や地誌のコレクターとしても知られる鹿島茂の貴重な蒐集品を中心に、絵画や衣装まで様々な美術品とともに、変貌するパリの姿を追っていきます。そこはまさに「失われた街を求めて」、19世紀末パリへとおもむく“タイム・トラベル”の空間です。
注目は、鹿島コレクションから見えてくる、改造前と改造されてもなお残された、「影」の部分です。ユゴーやバルザックが描いた、大改造によって失われゆくもの、追いやられていくものへの哀惜や、そこに生まれる犠牲、不満の視線。それらが、印象派の作品や写真、宣伝ポスターなど近代化の「光」と併せて浮かび上がります。バルザックの『いにしえのパリ』の描写を版画にした連作や中世からオスマン大改革までの古地図や復元図、風刺画などに、わたしたちはパリの城壁を見上げ、壊される建物に追われ、路地をさまよい、下層民や若者の苦しい生活にも触れます。やがてエッフェル塔のある風景とともに、市民階層の意識の高まりと、変貌を遂げ、現在へと連なるパリ風景や風俗の街にたどり着くのです。
19世紀パリに生み出され遺された美術品と、重ねられた歴史、そこには常に人々の営みがあり、記憶があることを、目に見える形でたどる――それは、切ないノスタルジーとともに、激動の時代の息づかいを感じさせるはず。近代化の以前と以後、それぞれの光と影に触れて、ぜひこの首都の魅力を深めてください。
「19世紀パリ時間旅行 ―失われた街を求めて―」
~6月4日(日)
開催場所:練馬区立美術館
東京都練馬区貫井1-36-16
開館時間:10時~18時(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜
TEL:03-3577-1821
入場料:800円
http://www.neribun.or.jp/museum