近代化で機械と大量消費を迎えていた1920~30年代に、フランスでグラフィックデザイナーとして活躍したカッサンドル。
洗練されたシンプルさ、フォントも印象的なポスターは、いまなおそのインパクトで鮮烈な衝撃を与えます。20世紀最大のグラフィックデザイナーといわれる彼の、およそ20年ぶりの個展「カッサンドル・ポスター展」が埼玉県立近代美術館で開催されています。
展示作品は、ファッションブランド「BA-TSU」の創業者でデザイナーであった故・松本瑠樹のコレクション。彼の収集は、都度、状態のよいものに買い替えてきたというポスターにとどまらず、代表作の原画を含み、その希少価値はフランスがうらやむほどのクオリティです。100年近く前のものとは思えない美しいポスターと貴重な原画で綴られる制作の軌跡は、グラフィックに革命を起こしたカッサンドルの斬新さを改めて感じさせ、情報過多になりがちな現在への反省すら促します。
見どころは、彼を知らしめた、幅4mにも及ぶ巨大なポスター《オ・ビュシュロン》。大胆なV字構図の家具店の広告はバリエーション違いの2点が並び、このサイズのものがこの状態で残っている驚きと迫力の空間になっています。代表作《ノール・エクスプレス》の、未採用だった油彩原画では、文字もデザインし、作図時に使用したコンパスの穴の跡があるなど、彼の創作のプロセスを楽しめます。食前酒デュボネの広告は、言葉遊びと訴求のユニークさが秀逸。人気を受けて生まれた扇子やレターセット、灰皿などのキャラクターグッズにもワクワクします。
画家バルテュスとの出会い、シュールレアリスムの影響などから、30年代以降、彼の画風は絵画的で、やわらかく、物語性のあるものに変わっていきます。同時に、ニューヨークでの個展を機に、雑誌『ハ―パーズ・バザー』の表紙など、活動の分野を広げていきました。しかし、彼が求めた絵画的なものへの評価は過去の名声には届かず、苦悩のうちに1968年自ら命を絶つのです。
絵画を志しながら、生活のために引き受けたポスター制作に、ギリシャ神話の悲劇の予言者から名を取ったカッサンドルの、本名を超えた評価の皮肉――。それでも最後に並ぶ文字だけのポスターは、そのオリジナリティと、絶妙な配置やカラーリングに、「文字」が視覚に与える力を引き出す彼の感覚と才能を見せてくれます。
世紀を超えて挑発し続けるカッサンドルのデザインの到達点、カッコいい展示空間とともに味わってください。
「カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命」
~3月26日(日)
開催場所:埼玉県立近代美術館
埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
開館時間:10時~17時30分 入館は閉館30分前まで
休館日: 月曜(3/20は開館)
TEL:048-824-0111
観覧料:一般¥1,000
(併せてMOMASコレクションも観覧可能)
http://www.pref.spec.ed.jp/momas/