―サイドスロープが出合う、クリエイションの精神 02―
脇坂 「モノづくり」について語り合う連載第2回目は、左官職人として活躍する久住有生さんです。銀座プレイスのエレベーターホールの土壁、すごいですね。土の微妙な色の違いや、人の手による温かみがグッときました。
久住 ありがとうございます。微妙に色が違うのは、土の配合が全部違うからなんですよ。
脇坂 えっ、全部?
久住 そうです、全部。実は、土が違えば使う道具も違うんです。土の調合や仕上げによって道具を使い分けるので、道具をつくることもあります。
脇坂 材料と道具の見極めは大切ですね。僕は新しい機械にはあまり興味がないんです。たとえば1本取りでしか編めないような古い編み機で、2本入れて編むにはどうしたらいいかと考えるのが楽しくて。そんな機械には、新しい機械に出せない味があるんです。
久住 僕のこの小さな鏝(こて)も、実は50年前に鍛冶屋さんがつくったものなんです。その職人さんはもう亡くなったので、ここまでの薄さを出せる方はもういないかもしれません。
脇坂 こんなシンプルな道具と腕だけで、あの真っ直ぐな壁をつくるのはやっぱりすごい。技術と知識だけでなく、センスが重要なんだと思います。
久住 そうですね。職人って頑固一徹のイメージですが、実際はセンスがないと新しいものをつくれないし、古いものも守れない。その点は、左官の父から「よいものとはなにか」を叩き込まれ、淡路島の美しい自然に囲まれて育ったおかげなのかもしれないなと。
脇坂 よいものは、知るだけでなく体感することが必須ですね。僕は若いときによいものを着まくっていました。
久住 着てみて体感しないとわからないこともありますね。
脇坂 そうなんです。より多くの人に僕のニットを体感してもらって、Tシャツ感覚で着られるような心地よいアイテムだと知ってほしい。よいもののよさを伝えていかなければ。
久住 以前、小学校に土壁をつくるという仕事をしました。当初は、壊れやすいし子どもがケガするんじゃないかと心配する声もあったんですが、何年経っても壊れるどころか傷ひとつない。子どもたちが大切にしてくれていることが、すごくうれしかったです。
脇坂 子どももわかるんでしょうね、この壁には想いが込められてるって。
久住 想いが込められたものは残る。それを信じて、これからもよい壁をつくっていくことが大事ですね。
脇坂 久住さんと僕は同い年。よいものを伝えることは、これからの僕らの役割なんだと思います。(写真:小野広幸 文:吉田桂)
サイドスロープ SIDE SLOPE
●2005年に誕生した、ファストファッションでもなくコレクションブランドでもない、ニットファクトリーブランド。デザイナーは、数々のブランドの企画に黒子として携わってきた脇坂大樹が務めている。「遊び心のある大人を満たすニット」をテーマに、洋服の価値に対して合理的な値付けや、資源の再利用なども視野に入れた商品を展開。着心地のよい上質なニットを、国内外へ発信している。
脇坂大樹 サイドスロープ デザイナー
●1972年、大阪府生まれ。企業のパタンナーやデザイナーを務めたのち、ニットデザイナーとして数々のブランドの企画に携わる。2005年に「サイドスロープ」を立ち上げ、工場の技術力や素材の特徴を熟知したテクニックを生かし、新たな発想をもってモノづくりに挑戦している。
久住有生 左官職人
●1972年、兵庫県淡路島生まれ。祖父の代から続く左官の家に生まれ、3歳で鏝を握る。18歳から本格的な修行を始め、23歳で「久住有生左官」を設立。重要文化財など歴史的価値の高い建築物をはじめ、商業施設や教育関連施設、個人邸の内装や外装を手がける。
問い合わせ先/フォワード・アパレル・カンパニー
TEL:03-5423-6451 www.sideslope.jp