大胆な線や点で描かれた、鮮やかな色彩の競演。一見すると抽象画のようなアボリジニ・アートですが、その背景には深い意味が込められていると知っていましたか? 日本ではまだ馴染みの薄い現代アボリジニ・アートの魅力を、人類学的にも深く掘り下げる展覧会「ワンロード 現代アボリジニ・アートの世界」が、9月19日まで香川県立ミュージアムで開催されています。
「今回お見せする作品たちは、アボリジニの失われた歴史を取り戻そうというプロジェクトの結晶なのです」と語るのは、オーストラリア国立博物館館長のマシュー・トリンカさん。オーストラリア開拓の歴史は、これまで入植者側からしか語られることがなく、20世紀初頭に西部の奥地に作られた牛の輸送用道路「キャニング牛追いルート」も、偉業のひとつとされてきました。ですが、この地は5万年も前から先住民アボリジニが暮らしてきた場所。白人の侵入により、土地や文化など失われたものも少なくなかったのです。
2007年、かつてこの地に住んでいたアボリジニやその子孫のアーティストたちが集まり、1850kmにも及ぶ牛追いルートを旅するというプロジェクトが始まりました。旅をしながら長老たちの物語に耳を傾け、自らのルーツを辿り、絵を描く。こうして生まれたのが、「キャニング牛追いルートコレクション」です。国立博物館が所有する作品群から、選りすぐりの37点が、今回の展示会「ワンロード 現代アボリジニ・アートの世界」にお目見えしました。
絵画は地図であり、アボリジニの歴史そのもの。
会場に入ると、それぞれの絵が放つ強烈なパワーに圧倒されます。アボリジニの絵画の源は、ドリーミングと呼ばれる物語。これは英語の“夢”とは全く異なり、遥か昔に大地を旅して社会の礎を作った精霊たちによる創造神話です。抽象的に見えるモチーフも、丸い形は水源、曲線の重なりは雲や砂丘など、ひとつひとつに意味があるといいます。文字を持たないアボリジニにとって、絵画は地図であり、世界観であり、歴史そのものの記録なのです。
「あるアーティストが、完成作品を振り返って『こんなにも私たちの歴史は美しくダイナミックで、独自のものなのだと実感した』と語っていたのがとても印象的でした」とトリンカさん。絵画が発するパワーは、アーティストたちの誇りの現れなのでしょう。美術展の枠を超え、民族のルーツや歴史に触れるエキサイティングな展示会に、ぜひ足を伸ばしてみてください。(高瀬由紀子)
ワンロード 現代アボリジニ・アートの世界
開催期間:8月6日(土)~9月19日(月)
開催場所:香川県立ミュージアム2階 特別展示室
香川県高松市玉藻町5-5
TEL:087-822-0247
開催時間:9時~17時(入館は閉館30分前まで)
金曜と9月3日までの土曜は9時~19時30分
休館日:月曜(8月15日、9月19日は開館)
料金:一般¥1,100 瀬戸芸パスポート展示で¥500
http://www.pref.kagawa.jp/kmuseum/tenji/tokubetsuten/kaisai/index.html
http://www.oneroad-aboriginalart.jp/
(巡回展の情報)
2016年10月1日~2017年1月9日 千葉県 市原湖畔美術館
2017年4月7日~5月7日 北海道 釧路市立美術館