“被災地のいま”を「ドキュメンタリー+アート」で伝える写真展、『Retrace our Steps ある日人々が消えた街』にご注目を。

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    夜間に強いフラッシュを当てて撮影した作品。避難区域の誰もいない空間で、津波や地震の被害が浮かび上がる。作品シリーズ「光影」より(2011-2013 )© Carlos Ayesta + Guillaume Bression

    6月24日(金)から、銀座のシャネル・ネクサス・ホールで「Retrace our Steps ある日人々が消えた街」と題された写真展が行われます。作品は一見、静かな風景や人物写真に見えますが、そこに写し出されているものはちょっとショッキングです。これらの写真はすべて、福島第一原発事故で避難区域に指定されたエリアで撮られたものなのです。撮影したのはギョーム・ブレッションとカルロス・アイエスタのふたりによるユニット。現在、東京を拠点にしているギョームさんにお話を聞きました。

    ギョーム・ブレッションさんはフランスの出身です。ベネズエラ出身のカルロス・アイエスタさんがベネズエラの混乱を逃れてパリへ移住したため、ギョームさんとカルロスさんは写真学校で出会います。ギョームさんはその後結婚、ジャーナリストの妻と一緒にフランスの放送局「フランス24」の特派員として東日本大震災の直前に来日しました。

    「東日本大震災が起きて、自分も『フランス24』ももちろん、取材に行かなくてはと考えて、来日したカルロスと一緒にふたりで東北を回るようになりました。震災直後から石巻などに入ってムービーや写真を撮り、数分から数十分の番組をいくつかつくっています。今回の展覧会で展示する福島の最初のシリーズを撮り始めたのは2011年の夏ごろだったと思います。最初は1シリーズだけのつもりだったんだけれど、パリで発表するたびに大きな反響があったので、いくつかのシリーズを続けることになりました」

    荒れてしまったスーパーマーケットで、震災以前と変わらぬ様子でカートを押す女性。作品シリーズ「回顧」より(2014)© Carlos Ayesta + Guillaume Bression

    その中でもとくに衝撃的なのは「回顧」と名付けられたシリーズです。廃虚と化した住宅やレストラン、オフィスやスーパーマーケットの中で、普段通りの生活や仕事をしている人たちが写されています。床屋の壁には津波が到達した時刻で止まってしまった壁時計が掛かっています。

    「室内のものには一切触っていません。地震や津波で崩れて、その後も長い間立ち入り禁止になっていたから小動物などに荒らされている。その場所で避難させられている人たちに、ごくふつうの日常的なシーンを再現してもらうよう、頼んだのです」


    避難区域に残されていた食材を撮った作品。広告写真に使われる手法で、とうに腐ってしまって食べられないものを撮っている。作品シリーズ「パックショット」より(2014)© Carlos Ayesta + Guillaume Bression

    モデルは避難区域に住んでいて、退去させられてしまった人々。撮影にあたって彼らはギョームさんたちにいろいろな話をしてくれました。
    「津波の直撃を受けていない人たちもいたけれど、みんなとても重要な話をしてくれました。とくに印象に残っているのは『自分は避難区域に戻れるけれど、村や町全体で見ると戻る人はごくわずか。コミュニティが存続できないから、結局戻ることはできない』という話です。仮設住宅など、移住先でコミュニティを形成しようという動きもあるけれど、政府や自治体は帰還を進めていて、住民たちと行政の間には大きなギャップがあるのです」

    見えないものへの恐怖や不安が、より強く伝わる。

    避難区域に住んでいた人も、実際にその場に行ったギョームさんたちにもどこが放射能で汚染されているのかはわからない。その見えない放射能を透明なプラスチックのシートで表現したシリーズ。作品シリーズ「悪夢」より(2013-2014)© Carlos Ayesta + Guillaume Bression

    こういった状況について、ギョームさんは「批判するつもりはありません」と言います。「批判するのは簡単だけれど、僕たちがやりたいのはそういうことではないのです。どんなことが起きているのかを伝えることが僕たちの役目だと考えています。それを見た人たちが自分たちは何をしたのか、何をすべきかを考え始める。それが僕たちの狙いなのです」

    「悪夢」というシリーズは、彼らにとって転換点となった作品です。街の中や公園に透明な膜や球体が出現しています。これらは見えない放射能を象徴しています。
    「放射能は目に見えないから、肉眼で見ただけではどこが線量が高くてどこが低いのかはわからない。それを写真によって露わにしようと考えました」

    このシリーズはフォトショップなどで合成したものではなく、実際に現場でプラスチックのシートなどを使って撮ったコンストラクテッド・フォトの手法によるものです。「回顧」のシリーズもそうですが、これまで私たちが目にしてきたストレートな写真とは違う、いわばつくり上げたイメージです。ストレートな写真だけでは伝わらない、見えないものに対して人々が抱く恐怖や不安がより強く伝わってきます。 

    避難区域は夏になると一面の緑に覆われる。人々が立ち去った街では家も車も草木に埋もれてしまう。作品シリーズ「不穏な自然」より(2014-2015)© Carlos Ayesta + Guillaume Bression

    使われなくなった家や駅が生い茂る緑に覆われてしまった「不穏な自然」シリーズは、地震や津波とは違う自然の脅威を感じさせます。強固に造られているはずの建造物がわずか数年で自然に“占拠”されてしまうのです。

    「よく見ると屋根まで葉に覆い尽くされてしまった家のすぐ近くに、まったく緑に覆われていない家が建っていることがあります。緑に覆われてしまった家は、住人が戻ってくるつもりがない家です。戻ってこようとしている住人は時々草刈りをしていたりするから、ここまで草が伸びることはありません」
    同じエリアでもこんなふうに対照的な光景が見られるということは、一つの町や村の中でも戻る人、戻らない人がまだらになって存在するということです。「回顧」のシリーズに登場した人々が語ったコミュニティ崩壊の不安をこのシリーズにも読み取ることができます。

    東日本大震災、福島第一原発事故から5年が経ったいま、彼らが撮った写真からは変わらなかったもの、変わったものが浮き彫りになります。「見ること」の重要さを、あらためて教えてくれる写真展です。(青野尚子)

    東京を拠点にしているギョーム・ブレッションさん。作品はパリから何度も来日したカルロス・アイエスタさんと撮影した。(撮影:大瀧 格)

    『Retrace our Steps – ある日人々が消えた街』
    カルロス アイエスタ + ギョーム ブレッション 写真展

    開催期間:6月24 日(金)~7月24 日(日)
    開催場所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
    開館時間:12時~20時
    無休・入場料無料
    www.chanel-ginza.com/nexushall/