先日、東京・神宮前のポール・スミス スペース ギャラリーで開催され好評を博した「Paul Smith + Masayoshi Sukita for David Bowie 2016」は、今年1月に逝去したデヴィッド・ボウイと長年親交があったポール・スミスと写真家の鋤田正義さんが、哀悼の意を込めた展覧会。ポールが所有するレコードやツアーパンフレット、雑誌などの思い出深い品々と、40年以上にわたりデヴィッド・ボウイを撮影してきた鋤田さんの写真などを展示。稀代のアーティストとしてはもちろん、友人としてのボウイを紹介する展覧会となりました。いまなお世界中の人々を魅了し続けるデヴィッド・ボウイとは、いったいどんな人間だったのか――。開催に合わせて来日したポール・スミスに話をうかがいました。
「デヴィッドと最初に会ったのは1979年。彼が突然、ロンドンの私のショップにひとりでやってきた時のことです。すでに私の服を着てくれていて、『僕は君の服が好きなんだ』と。そうとは知らなかったのでお礼を伝えると、そのあとは互いに自然と打ち解けられましたね。以来、何度も来店してくれましたが、驚くことにボディガードをつけず、ひとりでフラリとやってくるんです。当時ショップの上階にあった私のオフィスにも招きましたが、そこにあふれる山のような本やモノたちにいつも興味津々で、『素晴らしいコレクションだ!』と褒めてくれました。そんな“ガラクタ”を同じ感性で楽しめたので、きっと私と彼は感覚が近かったのでしょう。とにかく、好奇心が旺盛な人でしたね」と、ポール・スミスは語ります。
アーティストとして、また友人としてのボウイの実像。
こうしてボウイと出会ったポール・スミスは、プライベートな顧客としてだけではなく、写真撮影などにもたびたび衣装を提供し、親交を深めていったそうです。今回の企画展に出展された老舗ライフスタイル誌の特集記事もそのひとつであり、全身ポール・スミスブランドを着用している。なかでも白ホリゾント(撮影用バック紙)の脇から撮影をのぞくポールが写り込み、それを見たボウイがおどけるショットはお気に入りとのこと。そうした仕事上の関係だけではなく、友人としても思い出がたくさんあるそうです。
「彼とのいちばんの思い出は、お互いの夫婦同士4人でロンドン市内のレストランに行った夜のこと。食事を終えて店の階段を下りていると、デヴィッドが急に『The Party’s Over』(アメリカのポピュラーソング)を歌い出したのです。その歌声と光景にはとても感動しました。彼の訃報を妻に電話で伝えた時も、あの夜のことを話してふたりで泣きましたね。それと、こんなこともありました。ある日友人の18歳になる息子が、大学合格を機に、私のショップに“初めてのスーツ”を買いにきた時のこと。試着して鏡を見ていると、ちょうど買い物に来ていたデヴィッドが試着室から突然現れ、鏡越しに『そのスーツ、すごく似合っているよ!』と声をかけたのです。友人の息子はびっくりして顔面蒼白でしたが、きっとこのスーツのことは生涯忘れることができないでしょうね(笑)」
「この展覧会では、温かくウィットに富んだ人間性も含めた、デヴィッドの人生そのものを皆さんに知ってもらえれば嬉しいですね」と話すポール・スミス。「Paul Smith + Masayoshi Sukita for David Bowie 2016」は東京のスペース ギャラリーに続き、京都のポール・スミス 三条店で開催されます。アーティストとしての偉大な功績やスタイリッシュな一面だけではなく、ポールや鋤田さんとの友情を通し、デヴィッド・ボウイの人柄にも触れられる貴重な展覧会に、ぜひ足を運んでみてください。(撮影:江森康之 文:竹石安宏)
「Paul Smith + Masayoshi Sukita for David Bowie 2016」
開催期間:~5月8日(日)
開催場所:ポール・スミス 三条店
京都府京都市中京区三条通富小路東入中之町28
TEL:075-212-2313
営業時間:11時~20時(不定休)
●問い合わせ先/ポール・スミス リミテッド TEL:03-3478-5600
www.paulsmith.co.jp