先週のニュースで、アウトドアバッグ界のロールスロイスと評される「グレゴリー」と、三越伊勢丹がコラボした新作「アーバンアタック」シリーズのリリースをお伝えしましたが、実は紹介した「ブラック」以外に、「タイムグリーン」が同時にラインアップされることがわかりました。そこで今回は続報として、このシリーズの仕掛け人である三越伊勢丹のバイヤー井波亮さん、グレゴリーのマーチャンダイザー中島健次郎さんのおふたりに直撃、「アーバンアタック」シリーズの特徴やこだわり、コラボレーションの舞台裏をお聞きしました。
まずは三越伊勢丹のバイヤー、井波さんが「アーバンアタック」シリーズ誕生のきっかけを明かします。
「いまは街でもバックパックを使うことが当たり前になりました。加えて、“ノームコア”の台頭以降、長く使えるものを大事に使っていく価値観が見直されています。カジュアルなシーンからドレスのシーンまで使える新しいバックパックで、しかも“本物”の価値と機能をもつものがつくれないかと思ったことが、この企画の出発点です」。井波さんがこの企画のためにタッグを組んだのが、アメリカのアウトドアバッグ界の名門「グレゴリー」です。
「グレゴリー」のマーチャンダイザーを務めるサムソナイト・ジャパンの中島さんは、今回の取り組みを「グレゴリーは来年で創業40周年を迎えます。ありがたいことに、このジャンルのバッグではナンバーワンの評価を受けていますが、言い換えるとグレゴリーはこういうもの、というイメージが付いているとも言えますので、今回はいいチャレンジになりました」と話します。
井波さんはこの新作を、単なる街用ではなく、デジタルガジェットを使いこなすモバイルネイティブな都市生活者に向けたコレクションにしたい、と中島さんに提案しました。「アウトドア」と「デジタル」という機能としては真逆なものを、アウドドアバッグ界の王者がその経験と実績を活かしてどう料理するか。それに懸けたいと井波さんは思ったからです。
「グレゴリーの製品のなかに、『テクニカル』という登山用のジャンルがあります。そのなかの『バルトロ』というシリーズは、米アウトドア専門誌『バックパッカーズマガジン』で、2014年に金賞を受賞しました。内部にサブバッグが付いて、頂上へのアタック時はそのバッグだけで行動し、登頂後にまた収納できるようにデザインされていますが、その機能とコンセプトを今回の『アーバンアタック』シリーズに持ち込めないかとまず考えました」と中島さんが続けます。
今回の「アーバンアタック」シリーズには4型がラインアップされていますが、「バルトロ」シリーズのサブバッグを連想させる「REMOVABLE PC SLEEVE」と呼ばれるPCケースが、どのモデルにも付いています。デジタル機器を収納できるポケット付きのバッグがよくありますが、こうしたPCケースが最初から付属したモデルはまれです。
この「REMOVABLE PC SLEEVE」は、単なる付属品ではありません。使わない時には簡単に外せますし、単独でクラッチバッグ風に持った時に、一目で「グレゴリー」だとわかるようにデザインされているのです。同ブランドのアイコンでもある斜め形のポケットが外側に付き、コードなどの付属品もここに収納可能です。中央には本体と同じタグが、バッグ外側にハンドルまで付いた本格的なつくりで、内側のクッションパッドは同社の登山用バッグに使われているものです。このバックパックで会社に出勤した後、中から「REMOVABLE PC SLEEVE」を取り出して、シリーズ名どおりに颯爽と会議などのビジネスシーンに「アタック」するイメージを、ふたりは考えたのです。
「アーバンアタック」シリーズで、キーとなるモデルは「DAYPACK」(¥29,160)です。これは1977年に誕生した「グレゴリー」のマスターピースともいうべきモデルですが、都市生活のライフスタイルに合わせて手を加えました。その一例が、バックパックの肝とも言えるショルダーハーネスです。
「パッドの厚さはほとんど変わっていませんが、ビジネスシーンでのコーディネートも考慮して、機能はそのままに、ハーネスのデザインをシンプルにしました。新作をしばらく背負って試しましたが、重い状態で背負っても肩への負担、重さの分散の感じがカジュアルブランドのバックパックとはまったく違います。ハーネスのパッドもクセがつきにくく、使用前の状態にすぐに戻ります。背負いやすさという観点は、企画前にそれほど意識しなかったことなのですが、使ってみるとこのバックパックのいちばんのポイントではとさえ感じています」と、井波さんは「グレゴリー」のバッグづくりの基本的な技術力の高さを語ります。
「DAYPACK」は、底の部分が三角形にデザインされ、腰を包むように考えられています。「バックパックの多くは、肩だけで背負うような仕組みになっていますが、グレゴリーの場合は、背中から腰にかけてフィットし、荷重が分散されるように考えているのです」と中島さんが解説します。
「アーバンアタック」シリーズのバッグは、登山用の「テクニカル」シリーズに使われるジャカード織りの裏地が貼られています。使い込んでも生地にコシがなくなることもないし、高級感も感じられます。また本体の生地は従来のナイロンから、コットン60%にナイロン40%を混紡したものに変え、撥水加工も施されています。本体の縁を共布にして、全体のイメージをシックに仕上げました。レザーの「ジッパープル」も短くし、各所のナイロンテープも織り感のあるグログラン素材に変更されています。別注アイテムと言っても、デザインやディテールを何度も煮詰めて完成したのが、今回の「アーバンアタック」シリーズなのです。
こだわりは、ストラップやポケットの内側まで。
「DAYPACK」をよりシンプルにしたデザインが「OVERHEAD DAY」(¥22,680)というモデルです。通常のラインでもいま、人気を集めるモデルです。「バッグに入れて持ち運ぶものを考えると、パソコン、書類、雑誌など長方形が多いですね。『DAYPACK』は水玉形なので、長方形のものは少し収まりにくい。四角いものをもっとすっきり収めたいとの声があり、デザインしたモデルがこれなんです」と中島さん。井波さんは、このモデルにも手を加えました。バッグの背面をメッシュ素材にしたのです。これはスーツやジャケットなどで背負うことを考慮したアイデアですが、「グレゴリー」のバックパックは体にフィットする分、蒸れを感じさせることも多かったそうですが、メッシュ素材にしたことで解消できたそうです。
トートバッグはいま、男性からも人気の高いバッグです。「BAYSIDE TOTE」(¥19,440)は大きな荷物を容易に持ち運びできるモデルとして、今回のシリーズに加えられました。女性とシェアして使うことができるモデルと言えます。「グレゴリー」らしく、トップの蓋の開け閉めがワンタッチでできる「機能」がこのトートの特徴です。
「これは登山用のバッグのディテールなんです。山用って、開口部が巾着型になり蓋を被せられるものが主流です。ファスナーだと壊れてしまうことがありますし、きっちり入れないと閉まらないことも。これだと荷物を無造作に入れてもマチがあるので、ワンタッチで閉められます」と中島さん。さらにハンドルにはレザーを巻いて持ちやすく、高級感も演出しました。本体には大きなポケットが付いていますが、これも「グレゴリー」の登山用モデルから採用されたデザインで、収納力もあります。
最近では自転車で通勤するビジネスマンも多いと思いますが、そんな方にお薦めしたいのがショルダータイプの「METRO MESSENGER」(¥18,360)です。パソコンなどを入れて重量が増すことを想定し、上着などを傷めないようにと、ストラップにショルダーパッドをプラスしました。両サイドに小さなポケットがありますが、スマホやデジタル機器を入れることも考え、内側をやわらかい起毛素材に変更しました。また、内部のオーガナイザーにポケットもストレッチ素材を採用、入れるものをホールドしてくれます。これらの仕様は「METRO MESSENGER」以外のモデルにも採用されていますが、つくり手の細やかな気配りが感じられます。
さあいよいよ、気になっていたカラーバリエーションについてです。これまで紹介していた、ボディの色やタグまでマットなオールブラックというカラーは、都会に溶け込み、「アーバンアタック」の名にふさわしいものと言えますが、「黒以外のものが欲しい」と思われる方にもう一色、タイムグリーンが用意されているのです。
「実は私自身が、この色のバックパックを持ちたかったのです(笑)。既存のグリーンではなく、イメージを中島さんに伝え、色出しからスタートしました。今年はファッションでもミリタリーがトレンドですが、取り入れやすい色に仕上がったと思っています。オールブラックのモデルと同じく、こだわってジッパーの色まで同色にしました」と井波さん。
「通常のモデルは素材がナイロン100%なので、こういった中間色は、実は出しにくいんです。これは素材がナイロンとコットンの混紡素材なので、求めていたいい色に上がったと思います」中島さんはこの色出しの秘密を話します。
「グレゴリー」では、単色づかいのバッグそのものがまれです。ボディ各所にアクセントカラーを配したモデルがほとんどですし、バッグのボトムもブラックと決まっているのです。ジッパーも通常はシルバーしか使われていません。いわば「グレゴリー」では、今回の新作は、「オキテ破り」と言えるものです。だからこそ、いままでになかったフレッシュな「グレゴリー」が完成したとも言えます。これぞコラボレーション=別注の醍醐味、面白さではないでしょうか。(文:小暮昌弘 写真:平岩 享)
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