撮れないなら、下衆になってしまえよ。映画界底辺の人間模様を描く『下衆の愛』をいま見るべき理由とは。

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    主人公のテツオ(右、渋川清彦)と、彼を慕う助監督マモル(左、細田善彦)。渋川は昨年公開の『お盆の弟』でも、売れない映画監督を演じていました。

    下衆。なんだかすごい言葉です。ヤフーでググってみると、<品性が下劣なこと。また、そのような人やさま>。人を蔑む言葉の最たるもののように感じてしまいますが、まあ登場人物たちのダメっぷりといったら。その下衆の極みが、主人公の映画監督テツオです。ずいぶん前に獲った映画賞が自信の拠り所で、商業映画なんて面白くないと卑下していますが、実際は泣かず飛ばず。そのくせ、女優をとっかえひっかえ自宅に連れ込む(しかも実家に)自堕落な生活を送っています。粗野でセコくて、性欲で動いているようなテツオの周りにいるのも、立場をちらつかせてセックスしようとする男たち、色目を使って役を得ようとする女優などなど。そんな下衆なやつらに共通するのが映画愛です。あふれる性欲よりも強く、いい映画をつくること、素晴らしい脚本を書くこと、映画で演じることを渇望しているのです。ある日、テツオが主宰する演技ワークショップに加わったのが、ミナミという女優志望の女。彼女の才能に、そして彼女自身に惚れ込んだテツオは、最高の映画を撮ろうと一念発起するのですが……。

    映画業界、それもインディーズ映画界を舞台にした業界ものです。ずいぶんデフォルメされているのでしょうけれど、そんな見知らぬ世界を見る楽しみがあります。舞台裏は知らなくても、映画好きなら笑ってしまう描写もあちこちにあります(本作の公式サイトのキャスト紹介も楽しいです)。一方、映画好きだけに向けた作品でもありません。登場人物たちのことを下衆と書きましたが、人生のダメな部分をピックアップしたら、自分も登場人物たちと似たようなもの。共感とはちょっと違いましたが、彼らのありえない言動や情けない姿に笑い、同時に身につまされもし、そして底知れぬ映画愛に熱くなります。

    ダメダメなテツオを好演する渋川清彦が光りますが、でんでん、木下ほうか、古舘寛治、津田寛治といった日本映画界を支える名脇役たちも存在感たっぷりです。(Pen編集部)

    映画づくりよりも、実家に女性を連れ込むのに忙しいテツオ。この写真はその場面ではありませんが、冒頭のシークエンスが最高に可笑しいです。

    テツオが惚れ込んだ女優の卵ミナミ(左、岡本真也)と、彼女を口説こうとする映画監督(右、津田寛治)。彼女たちの下衆っぷりは映画を観てのお楽しみです。

    © third window films

    『下衆の愛』

    監督/内田英治
    出演/渋川清彦、岡野真也、でんでん、内田慈、忍成修吾ほか
    2015年 日本映画 1時間50分
    配給/エレファントハウス 
    4月2日よりテアトル新宿ほか全国順次公開。
    www.gesunoai.com