まるで現代版『ねじ式』のような、底知れぬ吸引力をもつファンタジー映画『シェル・コレクター』

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    リリー・フランキー(左)はじめ、日本映画を支えるキャストが集結。奇病に侵された娘を演じる橋本愛(右)は、どこかシャーマンのような佇まいを感じさせます。

    決してわかりやすくはないからこそ底知れぬ吸引力があって、何度も観たくなってしまう。『シェル・コレクター』のような作品に触れると、日本映画の懐の深さを感じて、うれしくなってしまいます。


    主人公は貝の美しさに魅了され、沖縄の離島で暮らしている盲目の貝類学者。海辺を歩いて貝を拾い上げては住処である小屋に持ち帰り、ひとつひとつを愛でるように中身をかき出し、磨いていく。彼が使っているものは拷問の道具のようにも見えるし、優秀な医者の手に馴染んだ手術の道具のようにも見えます。俗世との関わりを断とうとしているような彼の穏やかな日々が変わりはじめるのは、島に流れ着いた女性を助けた日から。世界で蔓延する奇病に侵された彼女が、学者が見つけたイモガイの毒に偶然刺され、なぜか回復していくのです。その日から、治療を求める人たちが学者のもとへと押し寄せてきます。


    アンソニー・ドーアの『シェル・コレクター/貝を集める人』の舞台をケニア沖から沖縄、渡嘉敷島に移して映画化したのは、1975年生まれの坪田義史監督。『ガロ』の漫画家になりたかったという監督は、安部慎一が『ガロ』に発表した漫画を映画化したデビュー作『美代子阿佐ヶ谷気分』で注目を集めました。『美代子阿佐ヶ谷気分』は70年代の空気を忠実に再現した印象がありましたが、自然と人との共存を見つめる『シェル・コレクター』は“今”の息吹きもある映画。現代版の『ねじ式』のような懐かしくもまったく新しい場所へと、観る者を連れて行ってくれるのです。


    怖くなるほどの澄みきった海と空、欲にまみれた人間たちの暴走を描いた作品ですが、ここには押しつけがましいメッセージはありません。ときには抽象的で実験的な映像に身も心も委ねながら、 リリー・フランキー演じる主人公の指先を通して世界と交信するような、魅惑的な感覚がこの映画にはあります。


    余談ですが男児というのは危険生物が大好きらしく、イモガイの一種であるアンボイナガイが毒針で小さな魚を刺し、丸飲みする映像を息子が何度もリクエストしてきた時期がありました。飽きずに「見て!見て!」と大興奮するので、こんな残酷な映像を何度も観て大丈夫なのか? と心配になりましたが、ひとつの貝から繰り広げられるこんなにも美しくも奇妙な映画が完成するということは、やはり貝の毒には年齢も国境も超えて人の心をつかまえるロマンがあるのかもしれません。(細谷美香)


    池松壮亮(中央)扮する慈善団体に所属する息子とのすれ違いや、死生観をめぐる描写も。

    寺島しのぶ(左)が演じるのは、世捨て人として生きている主人公の日々を一変させる元画家。

    『シェル・コレクター』

    監督/坪田義史
    出演/リリー・フランキー、池松壮亮、橋本愛、寺島しのぶほか
    2016年 日本・アメリカ合作映画 1時間29分 
    配給/ビターズ・エンド
    2月27日よりテアトル新宿ほかにて公開
    www.bitters.co.jp/shellcollector