イスラエル、ガザ自治区の城壁には風船で空を飛んで行く少女のグラフィティを、イギリスでは憂鬱な遊園地「Dismaland」を開催し、世界中で物議を醸したひとりのストリートアーティストがいます。
彼のグラフィティやアートはある日突然、誰も気がつかない間に、その街の片隅に存在しているのです。ある時は有名美術館の空きスペースに無断で自らの絵画を掲げ、しばらくの間誰にも気づかれず展示され続けていたことも話題になりました。そんな謎の男の完成度の高い“いたずら”に込められた独自のメッセージにはファンも多く、いまや彼の“作品”には高値が付き、街が彼のグラフィティを保存する動きまであるほど。
そもそも違法であるストリートアートやグラフィティは、匿名であるからこそ、強いメッセージやたっぷりの皮肉・風刺を直球でいきなり公の場にアピールできるという有機的な面もあわせもっています。そんな国際的悪名を獲得し、有名人となったひとりの男とは、“バンクシー”の名で知られるイギリス人なのです。
そんな彼が、ニューヨーク市中をハックした1カ月間を追った全記録をまとめたフォトブックが発売になりました。
『バンクシー・イン・ニューヨーク』では、ストリートアートとグラフィティ文化の大都市を1カ月に渡りジャックした様子が記録されています。「Better Out Than It」と題されたプロジェクトはまさに、自作自演のアーティストレジデンシー。ハート型の風船や、ネズミたちが古い壁にあらわれたり、ミートパッキングに卑屈な表情をした動物のぬいぐるみを詰め込んだトラックが出現したり・・・・・・。
バンクシーの作品は、毎日のようにインスタグラムで拡散され凄まじい勢いで広がり、白熱した議論を巻き起こし、ニューヨーカーたちを翻弄させ、まるで宝探しのプレゼントのように街と見る人を繋げて行ったのです。
本書では「人々が都市で遊ぶためのインタラクティブゲームになった」と綴るように、その興奮が手に取るように伝わってきます。
今年3月にはドキュメンタリー映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』として劇場公開も控えているので、ますますバンクシーの活動に注目が集まりそうです。(須賀美季)
『バンクシー・イン・ニューヨーク』
レイ・モック著
定価¥2,376
パルコ出版刊