マーティン・スコセッシの『ディパーテッド』、ベン・アフレックの『ザ・タウン』の影響で、サウシーと呼ばれる南ボストンは世にも恐ろしい犯罪エリア、という印象をもった人も多いのではないでしょうか。その認識をさらに深めざるをえないクライムムービーが『ブラック・スキャンダル』。とにかく、あっけなくすぐに人が殺されます。
登場人物はギャングのボスであるジェームズ・バルジャーと、州上院議員になった弟のビリー、そして幼なじみのFBI捜査官、ジョン・コノリー。アイルランド系移民が数多く住み、何よりも仲間同士の忠誠心が大事にされるサウシーで育った彼らの運命が転がりはじめるのは、ある提案がきっかけでした。マフィア浄化を成功させてFBIでのし上がりたいコノリーが、イタリア系マフィアと抗争を繰り広げるバルジャーに、敵の情報を売るよう話を持ちかけたのです。名声をのぞむビリーをも巻き込んではじまった彼らの闇と絆は、全米を揺るがす史上最悪の汚職事件へとつながっていきます。
ピューリッツァー賞受賞ジャーナリストのノンフィクションを映画化したのは、『クレイジー・ハート』『ファーナス/訣別の朝』で高い評価を得てきたスコット・クーパー監督。地味に男騒ぎさせる、はみだし者たちの世界を撮ってきた監督のもとに豪華キャストが集い、キャストの吸引力で引っ張る作品になっています。脇役まで完璧なキャスティングなのですが、語らずにはいられないのは、やはり世紀の悪党、バルジャーを演じたジョニー・デップ! 麻薬取引、恐喝、マネーロンダリング、殺人などあらゆる凶悪犯罪に手を染めたギャング、そして地元の人にとっては頼れる兄貴。その二面性はギャップ萌えを呼び起こす要素のはずですが、今回のジョニーにそんな甘っちょろいすき間はありません。『ラスベガスをやっつけろ』とはまた方向性の違う、几帳面さを感じさせるオールバックのハゲ頭、そして獰猛かつ冷酷な野生のオオカミを思わせる悪魔の瞳で、自分に都合の悪い人間、仁義に反する人間を次々と消していくのですから。
最初は「あっさり殺しすぎ……!」と驚愕しましたが、次第にこちらも「うん、バルジャーなら殺すよね」と感覚が麻痺してくるのが怖いところです。コノリーを演じたジョエル・エドガートンが見せてくれるコモノっぷりも悲しいくらいお見事。バルジャーはお前なんかの手におえる相手じゃないから! というツッコミが聞こえてくるようです。闇がうごめく物語のなかでホッとひと息つけるのは、ビリーを演じたベネディクト・カンバーバッチのエプロン姿くらいでしょうか。
こんなジョニーが観たかった! という興奮を呼び覚ましてくれる『ブラック・スキャンダル』。最も震え上がったのは、とあるディナーの席でのシーンです。我が家にそんなものはないけれど、もしも誰かに家族秘伝のレシピを聞かれても絶対に教えるのはやめよう、と心に誓いました。観てもらえばわかる失禁寸前の緊迫感、ぜひスクリーンで体験してください。(細谷美香)
© 2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
『ブラック・スキャンダル』
原題:Black Mass
監督:スコット・クーパー
出演:ジョニー・デップ、ジョエル・エドガートン、ベネディクト・カンバーバッチほか
2015年 アメリカ 2時間3分
配給/ワーナー・ブラザース映画
1月30日より新宿ピカデリーほかにて公開
www.black-scandal.jp