新春早々、注目すべき日本のアーティストの個展がニューヨークで始まります。そのアーティストとは、不思議な存在感を漂わす「生きもの」のイメージを大胆に描き出す画家で彫刻家の加藤泉です。彼の個展が1月7日から2月27日まで、ニューヨークのアッパー・イーストサイドにあるギャラリー・ぺロタンで開催されます。作家からの情報によれば、大作を含めた絵画、木彫作品、ソフトビニールの彫刻、ドローイングなど約20点が展示されるとのこと。これまでの彼の個展と同様に、加藤がつくりだす不思議な「生きもの」たちの息吹が横溢する展覧会となるでしょう。
加藤泉は1969年島根県生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵科を卒業。独特の絵画を制作していた彼は、2007年第52回ヴェネチア・ビエンナーレ国際企画展に参加して、一気に世界のアートシーンのなかで注目を集める存在となりました。
彼が絵画や木彫で表現するのは、あるときは胎児のようで、またあるときはミュータント、またあるときは人間の内側の変貌する姿のようです。それは捉えがたい存在でありながら見る者を強烈に惹きつける不思議なイメージの連鎖なのです。近年は、ソフトビニールでできた彫刻も制作し、ますます作品の多様性を増しています。
作品から伝わる、不思議な身体性とエロスの感覚。
今回の個展について正月明けに知らせをもらい、連絡をしてみると、彼はすでに機上の人でした。以下、寒いニューヨークに着いた彼とのメールのやり取りの一部を、作家の許可を得て抜粋します。
―― 今回の個展は絵画と彫刻の両方を展示するのでしょうか。内容について教えてください。
加藤 大小の絵、木彫、ソフビの彫刻、ドローイングとひととおり展示します。20点くらいです。
―― 以前にもお聞きしたことがありますが、加藤さんのなかでは、絵画と彫刻の関係はどういうことになっているのでしょうか。例えば、ある共通のモチーフがあって、それが2次元の絵画になったり、3次元の彫刻にもなると考えていいのでしょうか。それとも両者はもともと別のものとして考えた方がよいのでしょうか。また最近は、ソフトビニールの彫刻を作られていますが、素材を変えられた理由はなんでしょうか。
加藤 最近は絵と彫刻、半々ぐらいで作っています。関係は前に比べると、さっぱりと別れてきている気がします。ソフビは、リンデンというソフビトイメイカーのディレクターに、
「加藤さん、ソフビで何かやりましょうよ」と言われたのがきっかけです。ソフビは何か直感的にいけると思ったので、スタートしましたが、絵と木彫の間みたいな存在で、素材として、とても可能性を感じています。絵と木彫は共通のイメージがある場合が多いですが、ソフビは切ったり、張ったり、ひっくりかえしながら作っているので、独自感が強いです。
―― 絵画に描かれたり、彫刻につくられたりするものたちの表情が、最初期から比べると複雑に、時に破壊的になっている気がするのですが、作者としてはどんなことを意識していますか。
加藤 作品は常に動いていて、常に意識していることは、自分自身の記録更新のような部分と、モチベーション(やる気)です。
―― ヴェネチア・ビエンナーレから何年も経ちましたが、ご自身のなかで大きく変わったと思うことがあればお聞かせ下さい。
加藤 大きく変わったことは特にないですが、アートは面白いし、やりがいあるなーと年々思います。
加藤泉を取材して常に感じることのひとつに、作品から伝わってくる不思議な身体性とエロスの感覚があります。そして作家本人に感じるアスリート的な感性です。「記録更新」といった言葉は、おそらく加藤しか使わないヴォキャブラリーでしょう。冬のニューヨークは、熱いアートに出合う季節でもあります。これから現地に行かれる際は、ぜひ加藤泉の作品にもご注目下さい。(赤坂英人)
IZUMI KATO
January7-February27 2016
GALERIE PERROTIN
909 Madison Avenue New York. NY 10021
TEL212-812-2902
10am-6pm(Tuesday-Saturday)
www.perrotin.com