東京国立近代美術館で開催されている「MOMATコレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。」が評判を呼んでいます。私は美術館に日曜日に行ったのですが、以前同じ場所で行われた、フランシス・ベーコン展のような活況を呈していました。来場者は、30歳以上の人たちを中心に、20歳代から70、80歳代の人たちまでが会場に詰めかけていました。
特に今回は、東京国立近代美術館が所蔵する藤田嗣治の作品全25点と、京都国立近代美術館からの特別出品1点の計26点を、2フロア1500㎡以上を使って展示しています。そして何といっても注目すべきことは、今年が戦後70年ということもあり、藤田が描いた「戦争画」14点が一挙に展示されていることです。これは、まさに初の試みです。会場では「戦争画はどこにありますか」と係員に尋ねて、一気にそこへ行く人もいました。そこでは、エコール・ド・パリの寵児として、「乳白色の肌」をした裸婦像などで知られるフジタとは、180度異なる別の藤田嗣治の世界を見ることができるのです。
ただ、意気込んで「戦争画」のコーナーに足を踏み入れた人たちは、会場を巡り、藤田の描いたその絵を見ているうちに、誰もが沈黙し、どう考えたらいいのだろうという表情を見せるようになります。そして何かに圧倒されたように、押し黙って会場を後にするのです。
それほど藤田の「戦争画」は圧倒的な強度で見る者に迫ってくるのです。特に『アッツ島玉砕』(1943年)や『サイパン島同胞臣節を全うす』(1945年)などは、絵の前で思わず立ち尽くしてしまいます。描かれていることは、きわめて悲劇的なことであり、藤田がそれらを、絵描きとして死力を尽くして描いているのが、見る者に伝わってくるのです。
戦時下に軍部から依頼を受けた藤田は、何を思いながら「戦争画」を描いたのでしょうか。軽々に彼の「戦争画」を語ることはできませんが、少なくても私は、藤田は単純に軍人たちが望む戦意高揚のプロパガンダのために、「戦争画」を描いたのではないだろうと思いました。彼は、一人の絵描きとして、さまざまなものが交錯する「戦争」を描こうとしたのではないでしょうか。ダ・ヴィンチやラファエロや他のヨーロッパ美術史の傑作を思いながら。もちろん、多くの謎は、残されたままです。
藤田は戦後、日本の画壇から批判を浴びます。そして、彼はフランスに帰化し、療養先のスイスで没します。今年は映画『FOUJITA』も公開されました。多くの魅力と謎を秘めた画家、藤田嗣治。彼の絵を見に、竹橋まで足を運んではどうでしょうか。(赤坂英人)
MOMAT コレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。
会期:~12月13日
東京都国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー(4F、3F)
開館時間:10時~17時(金曜日は20時まで)※入館は閉館30分前まで
入場料:¥430(一般)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
www.momat.go.jp