セガールが出てきそうな邦題の『奪還者』は、“もう1つのマッドマックス”とも言える静かなアクション・ムービー

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    『奪還者』というタイトルを聞いて、スティーブン・セガール主演作かと思う方がいるかもしれません。心配はご無用(あるいは残念ながら)、セガールは出てきません。「世界経済が崩壊した10年後のオーストラリア」という舞台設定は、どこか『マッドマックス』シリーズを思わせるもの。怒涛のようなアクションに満ちたものではありませんが、“もう1つのマッドマックス”と言えそうな作品です。


    主人公のエリック(ガイ・ピアース)は、身なりに気を使わず、虚無感を漂わせる男。愛車である古ぼけたセダンを3人の男に奪われると、スイッチが入ったかのように執拗に車を追いかけます。エリックが命を顧みず車を取り戻そうとする理由は、すぐには明かされません。車を奪還しようとする道中、エリックは銃弾で負傷したレイ(ロバート・パティンソン)という男と出会います。レイは車の窃盗犯と関係があり、どうやら仲間に置き去りにさられたよう。目的が一致した2人は砂漠の中を突き進みます。


    砂漠の中でエリックが出会うのは、生きる気力をなくしていたり、銃で武装している人ばかり。治安が崩壊した人気のない砂漠が緊張感を醸し出します。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のように、見るからに恐ろしい人物や乗り物は登場しませんが、じわりじわりと恐怖を生み出すのです。エリックやレイから見て取れる感情も、怒りなどの猛烈な感情というよりは、諦めや恐れ、憂いだったり。映画的な面白さをとことん詰め込んだ『マッドマックス』よりも、リアルな感情描写に引き込まれます。爆音と爆発が炸裂するマックスの逃走劇の近くで、ひょっとしたらエリックとレイのような物語がいくつも展開していたのかもと思わせてくれます。


    監督のデヴィッド・ミショッドは、『アニマル・キングダム』(2010年)で長編デビューを果たしたフィルムメイカー。母の死をきっかけに、犯罪一家と暮らすことになった少年を描く『アニマル・キングダム』も、優れた心理描写が印象に残りました。映画では、ブラッド・ピット主演の『War Machine』などを準備中とか。今後が楽しみな監督のひとりです。(Pen編集部)

    © 2013 Rover Film Holdings Pty Limited, Screen Australia, Screen NSW and the South Australian Film Corporation

    『奪還者』

    監督/デヴィッド・ミショッド
    出演/ガイ・ピアース、ロバート・パティンソンほか
    2013年 オーストラリア・アメリカ合作映画 1時間40分
    配給/ポニーキャニオン
    7月25日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
    www.dakkansha.jp