墜落しかけている飛行機に5人の客が乗っていた。パラシュートは4つしかない。最初の男が「わたしは安倍晋三だ。国民のためにどうしても死ねない」と言ってパラシュートを持って飛び降りた。次は女。「わたしはヒラリー・クリントン。アメリカの国民がわたしを待っている」。次もアメリカ人で、その男はこう言った。「わたしは元アメリカ大統領のブッシュで、世界一頭がいい男だ。申し訳ないが使わせてもらうよ」。4番目はローマ法王だった。ふと見ると、かわいい少女が残っている。さすがはローマ法王、「わたしは未来のない老人だ。未来のあるあなたが使いなさい」とパラシュートを渡すが、少女はけろっとして言った。「法王様、パラシュートは2つありますから大丈夫です。さっき世界一頭がいい人がわたしのリュックサックを持って飛び降りていきました」――
26年前に刊行された、文豪・開高健(故人)と名物編集者・島地勝彦によるジョーク対談集が、このたび『蘇生版 水の上を歩く?――酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス刊、本体¥2,000)として復活しました。これは、その刊行を機に代官山 蔦屋書店で7月初旬に開催されたトークショーで披露されたジョークのひとつです。「酒とジョークと開高健」と題されたこのイベントでは、Pen連載でもお馴染み、本書の著者である島地勝彦氏と、元サントリークォータリー編集長でジョーク対談の生みの親である谷浩志氏、オリジナルの『水の上を歩く?』の大ファンで、「蘇生版」に帯文を寄せた文筆家の小泉武夫氏の3名が、とっておきの話と新作のジョークを披露し合いました。
まず谷氏が本書誕生のいきさつを語り、その後は島地氏を中心に、開高健との思い出話に花が咲きます。開高がアラスカにクマを狩りに行き、仕留めた1頭の毛皮を島地氏に送ってきた話や、サントリーの佐治敬三社長(当時)が『水の上を歩く?』を、「これ読んでると便通がええんや」と言ってトイレに置いてくれていた話……。島地氏と小泉氏は、ジョーク十番勝負ならぬ「食の十番勝負」をやり合った間柄で、一緒にヒグマを食べて「舌が勃起した」話なども飛び出して、トークショーは大盛り上がりでした。
トークショーの後半は、本書にふさわしく、一夜限りのジョーク合戦となりました。せっかくなので、ここでもうひとつ、小泉氏が披露した新作のジョークを。
チャイナタウンでレストランを経営しているおやじが、中国人のコックを雇った。腕のいい料理人だが、悪い癖があって、おやじのワインを少しずつ盗み飲んでいる。それでおやじは懲らしめてやろうと考え、こっそり自分の小便をワインに注ぎ足した。コックは気づかず、ワインは徐々に減っていく。空になったところで、おやじが問い詰めるとコックが言った。「旦那さん、私は飲んでないですよ。旦那さんが毎日食べていらっしゃるステーキに振りかけてたんです」――
174篇のジョークが収められている『蘇生版 水の上を歩く?』は、四半世紀が経ったいまも、少しも古びるところがありません。本書を読めば、あなたも酒場で粋なジョークを繰り出せるかも。(Pen編集部)