『観ずに死ねるか!絶望シネマ88』という、豪華筆者陣による珠玉の映画論集。

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    リゾート気分などとは対照的な世界、「絶望」をテーマにした映画論集『観ずに死ねるか!絶望シネマ88』(鉄人社)が出版されて話題となっています。表紙に「総勢70人が語る極私的トラウマ映画論」という言葉が躍るこの本は、物騒に見えますが、しかし中身は、映画を愛する人たちが個性的スタイルで論じた珠玉の映画論集となっているのです。ちなみにこの本は、「韓国映画」「ドキュメンタリー」「青春映画」と続く「観ずに死ねるか!」シリーズの第4弾です。

    コンセプトは明快。「ハッピーエンドはどこにもない。穏やかな時間も、心からの笑顔もない。しかし、世の中が絶望で出来ているのもまた事実。悲劇と戦慄と破壊と哀切と狂気に満ち満ちた傑作88本。観ずに死ねるか!」。本書冒頭のこの文句が、雄弁にこの本のメッセージを伝えています。

    筆者陣は、荒井晴彦、岩井志麻子、宇多丸、蛭子能収、柄本時生、大槻ケンヂ、オダギリジョー、カンパニー松尾、水道橋博士、末井昭、スピードワゴン小沢、想田和弘、園子温、染谷将太、高橋ヨシキ、滝藤賢一、武田梨奈、成海璃子、立川志らく、坪内祐三、中村うさぎ、二階堂ふみ、西村賢太、能町みね子等、多彩を極めています。また、取り上げられている映画も『禁じられた遊び』(立川志らく)、『西鶴一代女』(柳美里)、『少年』(モルモット吉田)、『誰もしらない』(川本三郎)、『オールド・ボーイ』(中井圭)……と多種多彩です。「絶望」の世界は奥深いというべきでしょうか。

    そして「奈落に落ちる1週間!」として、出版記念上映会が豪華ゲストを招いたトーク・ライブとともに開催されます(東京・テアトル新宿、8/7~8/7)。上映作品は『さらば愛しき大地』『オールド・ボーイ』『軍旗はためく下に』『ジェイコブス・ラダー』『悪の法則』『復讐するは我にあり』『炎628』『TATTOO[刺青]あり』『ときめきに死す』『ソナチネ』『チェイサー』『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』の12本。(上映会の詳細はmizushine.comを要チェック)

    上映される12本は傑作ばかりですが、なかでも注目の作品は、写真が本書表紙にも使われている『炎628』。エレム・クリモフ監督のソ連映画(1985)です。第2次世界大戦中、ナチス・ドイツがベラルーシ(旧白ロシア)で犯した村民大虐殺を史実に基づいて描いた一本。昨年2014年、英国『Time Out』誌とQ・タランティーノ監督が選んだ「第2次世界大戦映画ベスト50」の第1位に選ばれた作品です。本書では映画監督の橋口亮輔が取り上げています。集団的自衛権が大きな問題とされた安保法制が国会で強行採決された昨今、深作欣二監督が描いた反戦ドラマ『軍旗はためく下に』などとともに、いま観るべき一作かも知れません。橋口監督は最後に書いています。「一度は観といたほうがいいけど、別に無理して観なくてもいい。知らないままでやっていけるなら、それに越したことはない。あなたがそれでいいのなら」と。(赤坂英人)

    「炎628」ⒸMosfilm Cinema Concern 1985

    「オールド・ボーイ」Ⓒ2003 SHOW EAST

    「さらば愛しき大地」Ⓒプロダクション群狼

    「ジェイコブス・ラダー」Ⓒ1990 StudioCanal. All Rights Reserved

    「ソナチネ」Ⓒ1993松竹株式会社

    「ときめきに死す」Ⓒ1984ニュー・センチュリーズ・プロデューサーズ

    「復讐するは我にあり」Ⓒ1979松竹株式会社/今村プロダクション

    『観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88』
    鉄人社 園 子温、宇多丸、 二階堂 ふみ、水道橋博士ほか著
    ¥2,000(本体、税抜き)