4月23日(木)に開催された、タイププロジェクト代表・タイプディレクターの鈴木功さんと、ワイデン+ケネディ トウキョウのエグゼクティブ クリエイティブ ディレクターの長谷川踏太さんによるトークショーでは、フォントを中心にデザイン話が交わされ、当日発表されたフィットフォントについて盛り上がりました。
映画制作より時間がかかるフォントのデザイン
スタートは、タイププロジェクトの仕事の紹介から。7つの文字の太さと3つの字幅を持つAXIS Font、名古屋をイメージした金シャチフォント、横浜をイメージした濱明朝体、そして昨年発表した6つの文字の太さと3つのコントラストをもつTP明朝が紹介されました。
鈴木 AXIS Fontには、長体と超長体のフォントがあります。正体の100%と比べて漢字を60%、仮名を50%というように、適切な比率を実現している日本語フォントはほかにはないと思います。デザインのぎりぎりのところに挑戦しました。
長谷川 目で見て編み出した気持ち良いバランス、つまり秘伝のレシピなんですね。
長谷川 金シャチフォントはシャチホコっぽいですね。横浜フォントはシュッとしてる。
鈴木 金シャチは、赤味噌のような濃い感じを出しました。名古屋弁かるたや名古屋グルメカレーのパッケージに使われています。地元の企業に声をかけてもらって使っていただけるのは、本当に嬉しいです。
鈴木 TP明朝は、コントラストという横画の太さのバリエーションをもつユニークなフォントです。日本語フォントのファミリー軸として設定したのは初めてですね。横画の太さにともなって、文字の先端やはらいも連動して変えています。すべて同じ数値で機械的につくれる訳ではないので、完成まで5年かかりました。
長谷川 これも最終的には目で見て、ひとつひとつのかたちを決めてるということですか?ものすごい忍耐力ですね。映画より時間がかかってる。
鈴木 ロボットアニメのアルドノア・ゼロ、これは僕も好きで見ていたんですが、ハイコントラストを印象的に使ってもらっています。そして建築家の藤本壮介さんの展覧会ポスターでは、ローコントラストを使ってもらっています。
長谷川 ハイは、デバイスの解像度が上がるにつれていろいろなところで攻められますよね。ローはチャーミングな感じがでてますね。
新しいものへの挑戦から生まれるアイデア
長谷川踏太さんは、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの大学と大学院を通してプログラミングとインターフェースデザインを学び、ソニークリエイティブセンターに入社。2000年に参加したロンドンのデザイン集団Tomatoでは、テレビ朝日のロゴや携帯電話のインターフェイス、上野の東京国立博物館のナビゲーションシステムなど、多くのプロジェクトを担当しました。現在は、ワイデン+ケネディ トウキョウで、ナイキやベン&ジェリーズなどのコミュニケーションストラテジーやブランディングに携わっています。
鈴木 あの頃のTomatoはエッジのたった集団という印象でした。モーションタイポグラフィなど、Tomatoの役割は大きかったと思いますが、どうでしたか?
長谷川 Tomatoではみんな自分のスタイルをもって仕事をしていたのですが、その中でも僕はテクノロジー寄りでした。ソニーのコネクテッドアイデンティティのプロジェクトに参加したのですが、画期的すぎて誰も理解しなかった(笑)
鈴木 音声に反応して動くテレビ朝日のロゴや、時間が切り替わるときのアニメーションなど、いまは当たり前の様に聞いてますけど、10年前にこれらをやっていたというのは早いですよね。かなり挑戦的。
長谷川 新しいことに興味があるので、まず自分が最初にと。
鈴木 そのように技術の方向性をみせてもらうと、こういうところに文字が使われたらと、想像力が膨らみます。
ウエイトやコントラストを選ぶ。
長谷川 ちょっとややこしいですが、TYPEという眼鏡ブランドもたちあげています。眼鏡も縁が少し変わるだけで印象がずいぶんと変わるところがフォントに似てるということころから、フォントをモチーフにした眼鏡です。文字のウエイトやコントラストを選ぶように眼鏡を選べないかな、というのがきっかけでした。でも、先ほどの話を聞いて、そんなに何年もかけてつくったフォントを簡単に使ってしまっていいのかな……と思いました。
鈴木 それはよく言われるんですけど、ぜんぜん問題ない、むしろいいと思います。文字は素材なので、いろいろな使われ方をしてもらうのは楽しいですよ。それに僕も眼鏡を選ぶときに、このデザインでもう少し細いのがあったらいいのに、と思うことがあるのでこれは嬉しいですね。
長谷川 それを聞いて安心しました。文字とかフォントにはもともと興味があるので、ロゴをつくるときにダイナミックに動かす実験をしました。なので、フィットフォントの話を聞いた時に「こういうのがあったらいいな」と思っていたものが、ついに出てきたかと思いました。
鈴木 欲しいウエイトがないという要望がけっこうありまして。フィットフォントでは横画のバリエーションが21、縦画が51の、1,071フォントを用意しました。ユーザーが自分で設定することができます。滑らかなバリエーションなので、僕達がみても隣り合うフォントの違いの見分けが難しいですよ(笑)
長谷川 アメリカやヨーロッパでつくったビジュアルを日本用にするときに、言葉選びと同じように大変なのが書体選びです。「あれとこれなら、こっちでいいか」と決めてしまうこともあるんですけど、フィットフォントならちょうど良く合わせて買えるってことですね。
鈴木 金属活字の姿かたちの良い所を引き継がなければと思いながら明朝体をつくったんですが、一方で、デジタルだからできることもあるだろうと思っていました。少し長くかかったけど、フィットフォントで、それをようやく実現しました。
長谷川 ロゴやタグラインまでならオリジナルのフォントをつくるけど、ボディコピーまではつくりきれない。体力がいりますからね。そういう時にこれは役立つなあと思いました。
鈴木 フォントへの意識が高くなってきているなかで、まだ応えられていない部分もある。そこに挑戦し続けていきたいですね。
立ち見が出るほど盛況だった会場では、対談終了後も鈴木さんと長谷川さんを取り囲む人が多かったのが印象的でした。
※トークイベントの動画を公開しています。http://typeproject.com/reports/
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