農業を初めてアートにした、「ジャン=フランソワ・ミレー」の展覧会がなかなか刺激的です。

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    ジャン=フランソワ・ミレー『種をまく人』1850年 油彩、カンヴァス
    <font size="1">Gift of Quincy Adams Shaw through Quincy Adams
    Shaw, Jr., and Mrs. Marian Shaw Haughton 17.1485</font>

    何かと気が急く時節ですが、そのなかでも見逃したくない展覧会が東京の三菱一号館美術館で開催中の『ボストン美術館 ミレー展』です。会期は年明けの2015年1月12日までですが、好評を受けて、12月27日、28日の特別開館も決まりました。展覧会は、ボストン美術館所蔵のジャン=フランソワ・ミレー(1814~75年)の作品を中心に、バルビゾン派やミレーの影響を受けたクロード・モネの絵画ほか、計64点で構成。目玉は、30年ぶりに東京で公開されるミレーの『種をまく人』です。有名な作品ではありますが、都市で働き、暮らす私が、19世紀のフランスの農民の絵を観ることに何の意義があるのか? そんな疑問をもってこの絵をじっくり観てみました。

    男の顔は影になってよくわかりません。無駄のない筋肉のついた身体で、種をつかんだ手をのばした“農夫”がそこにいます。『羊飼いの娘』は羊毛を紡ぎながら、ただ羊を待つ少女が浮かび上がるようにカンヴァスにいます。会場に並ぶほかの作品、たとえば驚きの表情や、カラヴァッジオのような明暗でドラマティックな演出がされた作品と比べると、ミレーの、特に後半以降の絵画は、淡々と農民を映し出していることに気が付きます。

    ミレーは美術史上、初めて農業をモチーフとし、神でも王侯貴族でもない無名の農民を堂々と描いた点で革新的だったと評価されていますが、突き詰めれば、ミレーが描いたものは農業という労働の本質ではないでしょうか。ミレーの描く人物は、派手なポーズをとりません。にもかかわらず、耕し、食べものをつくる労働そのものを描いたミレーの絵には、人の営みの根源的な強さがあります。優れた技巧や構図の解説は展覧会図録でご覧いただくとして、まずここではミレーの絵が、オフィスワークで凝り固まった頭と身体に、なかなか心地よい刺激だということをお伝えしたいです。(Pen編集部)

    ジャン=フランソワ・ミレー『羊飼いの娘』1870-73年頃 油彩、カンヴァス
    <font size="1">Gift of Samuel Dennis Warren 77.249</font>

    ジャン=フランソワ・ミレー『編物のお稽古』1860年頃 油彩、板
    <font size="1">Gift of Quincy Adams Shaw through Quincy Adams
    Shaw,Jr., and Mrs. Marian Shaw Haughton 17.1504

    『ボストン美術館 ミレー展
    ――傑作の数々と画家の真実』

    2014年10月17日~2015年1月12日

    三菱一号館美術館
    東京都千代田区丸の内2-6-2

    TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
    開館時間:10時~18時(金曜は20時まで。ただし2015/1/2は18時まで、いずれも入場は閉館30分前まで)
    休館日:月(2015/1/5と1/12は18時まで開館)、2014/12/29~31、2015/1/1
    入場料:一般¥1,600
    http://mimt.jp/millet