ファッションクリエイターが薦める、いま行く価値のあるショップ【ひとり1選 Vol.1】
たいていのものがネットで手に入り、家電でも家具でもわざわざ買いに行く必要のない時代になった。それでも、試着しないと商品価値がわからないファッションアイテムは、リアル店舗の最後の砦だった。しかし世界的なパンデミックがモニタでの買い物への抵抗感を薄れさせると状況が一変。ファッションもネット購入が当たり前になってきている。ただその一方で、品揃えにひとクセある店は店頭での売上が好調と聞く。特に地方の個人店は本当に好きなものを着たい人や、遠出できず近場で楽しみたい人たちで賑わっているようだ。
東京にいてもテレワークで一日中モニタを見続ける生活が続くと、街に出かけて気晴らししたくなる。密を避けつつ店で優れたデザインに触れ、未来を発見したい。そのようなファッションを “体感” するのに最適な店を求めて、Pen Onlineの連載「着る/知る」は、実力派のファッションクリエイターたちにアドバイスを仰いだ。有名無名を問わず、「クリエイティブ好きの大人に薦めたい店」というテーマで考えていただいた。
クリエイターたちが挙げてくれた候補はそれぞれ数店ずつ。着る/知る担当者がその全店を訪れ、とくに気になる各1店に絞った。いわば2重のフィルターを通した厳選セレクトである。品揃え、接客、店内のムードはもちろん、休日に出かけて心地いい散歩コースになることも指標のひとつになった。
数回にわけてお届けする初回となるVol.1の選者は、表参道の名店「レショップ」のコンセプター兼ETS.マテリオのディレクターである金子恵治さん。そして自身のブランドのユーゲンを2020年に立ち上げ、瞬く間に大人層の心を掴んだベテランデザイナーの小山雅人さんの2名。彼らが選んだ2店はともに、オープンして1年またはわずか2ヶ月という、コロナ禍世代。新しいもの好きの人も必見だ。
大阪の有名メンズショップが東京に進出
シルバーアンドゴールド 東京
選者:レショップコンセプター/ETS.マテリオ ディレクター 金子恵治
そう語る金子さんの推薦コメントが、店の個性を見事に物語っている。オープン日は、21年5月1日。まさにできたてほやほやの新店だ。今年20周年を迎えた大阪店のファンで東京に住む人には、これほど嬉しいニュースもないだろう。中に入ってラックに目を向けると、あまり見かけない気鋭ブランドのミドリカワ、アマチが目に飛び込んでくる。新世代のクラフト&アートなデザイナーズに関心を向ける人は限られるだろうが、この価値あるクリエーションを発信するのがシルバーアンドゴールドの心意気だ。
店のオープンが急遽決まり、現在は大阪店の在庫から東京向けにセレクトしたアイテムが並べられている。大阪で扱うエンジニアドガーメンツらのネペンテスブランド、カラー、オーラリーなどは近隣エリアの競合店にも配慮してここには置かれていない。セレクトが絞られているだけに、東京の店を見慣れた目にはより個性的に映る。ラインアップされるのは、「つくり手が見える服」。古着文化が根強い大阪らしく、デニムに合うアイテムという目線もある。高級志向ではないものの、魅力的なものを集めると自ずから高価格帯の品が増えてしまうそうだ。
青山から原宿に抜ける静かな裏通り沿いにあり、表からも奥からも自然光が店内を明るく照らす。3部屋にわかれたフロアは広々として風通しもいい。近隣にある「ランチキセントリューム 東京」や「ネペンテス 東京」らも巡って買い回りするのもよさそうだ。
古着店らしからぬ、爽やかな風がそよぐ
オレンジガーベラ
選者:ユーゲン デザイナー小山雅人
三軒茶屋から下北沢へとつながる茶沢通りを進み路地を曲がり、商店街を抜けた先にさりげなく佇む小さな店。駅から徒歩で7〜8分ほどの距離だろうか。ドアを開けると透明感のある香りに迎えられ、ここが古着店だと気づくまでにしばらく時間が掛かってしまう。並ぶ服は着られた痕跡はあっても汚れが少なくすっきりとクリーン。古着の世界ではよくアイテムが “ヴィンテージ” と “ユーズド” に分別され、“ヨーロッパもの”や“アメリカもの”など国も問われるが、そのどれともつかない、ジャンル分けなど気にせず素敵な服ばかりを集めた様子が心地いい。
この自由さが、新しいファッションを創造する小山さんのセンスにフィットするのだろう。20年5月にオープンして一年ほどのこの店が、すでにお気に入りのようだ。
「色も軽やかな雰囲気でノンシャランなムードのユニセックス。肩肘を張らない品揃えと気立ての良いスタッフが魅力です」
そのように推薦理由を語ってくれた。
品揃えは女性客が多く訪れることを意識して、メンズアイテムでも女性が着られるテイストが中心。昔ながらの男っぽい古着とは距離を置く現代的なジェンダーレス感覚だ。買付けも行う男性オーナー2名は共に、テキスタイル商社の勤務経験を持つ。ファッショントレンドのリサーチが欠かせないアパレル畑の出身であり、彼らの古着好きが高じてつくられた店がオレンジガーベラなのである。ラインアップはトレンドを意識し、提案するのはミックスカルチャー。手持ちのベーシックなワードローブにここの古着で時代感を加えたり、モードな服装のアクセントに活用するのも楽しそうだ。
多くのクリエイターが暮らしの拠点にする三軒茶屋は、都会的な店と庶民的な商店街が入り混じる和やかな街並み。散歩の秘訣を小山さんが話してくれた。
「日曜日は茶沢通りが歩行者天国となり、広々と歩くことができます。特に駅からオレンジガーベラに向かう道には、コーヒー屋やパン屋など様々なお店があり開放感を感じながらゆっくりとした時間を楽しめます。また、キャロットタワーの展望フロア(26階)からの眺めも気持ちが良くおすすめです」
ソーシャルディスタンスを保ちながら買い物と散策ができる三軒茶屋こそ、休日に出かけるのにぴったりな街だ。