テスラに見る株式市場の先見性、知っておくべき歴史の教訓
<日本の時代があり、中国の時代があり、今はGAFAが時価総額の上位を独占している。このアメリカ企業の時代において、テスラは単なる「世界一の電気自動車メーカー」ではない>
■規制により加速する自動車の電動化
2020年9月、米カリフォルニア州は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止して完全に電気自動車へ移行し、州内のCO2排出量を35%削減する、という声明を出しました。
全米最大の経済規模と人口を持つカリフォルニアは、歴史的に見ても世界の自動車規制に長年大きな影響を与えてきた州ですので、これによって自動車の電動化が加速することは想像に難くないでしょう。テスラ<TSLA>にとっては、自動車部門の拡大に拍車がかかる動きといえそうです。
■テスラに見る株式市場の先見性
世界一の電気自動車メーカーであるテスラは電気自動車を開発するにあたり、様々な企業との協業により先進的な技術を搭載した車を製造していますが、実は徐々に内製化を進め、その技術力を内部にため込んでいます。
キーテクノロジーとされる電池や半導体システムなどについては、日本のパナソニック<6752>や米エヌビディア<NVDA>等と提携する一方で、自社開発につなげる動きも速めています。今後は提携している会社との関係も解消し、徐々に内製化の比率が高まっていくだろうと想定されています。
特に電池については、自動車用途に留まらず、石油に代わるエネルギー源としての開発を進めており、自動車とは異なる分野に進出する準備をしています。
すでに、エネルギービジネスへの足掛かりとして、カリフォルニア州電力会社との協業、オーストラリアでの蓄電池電力供給システムなど、エネルギーマーマットへの参入を試みています。アメリカだけでも40兆円ビジネスと言われるエネルギー分野だけに、その動向からは目を離せなくなっています。
このように、自動車のみならずエネルギー産業に対しても先手先手を打つことで、テスラがそのポジションをさらに上げていく可能性は高いといえます。すべてが実現するかどうかわからない話ではありますが、今の時代背景が、上昇を続けるテスラの株価にも表れていると言えるかもしれません。
■株式市場の主役は20年で変わる
世界経済の動向を端的に見るうえでは、株式市場の存在は無視できません。企業の時価総額(株価×発行済み株式総数)はその会社の持つ企業価値といえますが、その変遷を見ることで世界経済の歴史がわかり、振り返ることで世界の企業の主役が理解できるのです。
時価総額のランキングで見ると、2021年1月22日時点での世界トップ5は、アップル(23,030億ドル)、サウジアラムコ(20,400億ドル)、マイクロソフト(17,010億ドル)、アマゾン・ドット・コム(16,590億ドル)、アルファベット(12,770億ドル)。そして、テスラは7位(8,010億ドル)です。
ちなみに、日本市場のトップであるトヨタ自動車<7203>は47位(2,087億ドル)。
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■中国企業が席巻した時代、日本中が沸いたあの頃
これを見るとわかるように、現在はGAFAをはじめとしたアメリカ企業が上位をほぼ独占していますが、過去にはまったく異なった会社が占めていました。
14年前の2007年当時で言うと、中国のペトロチャイナが1位、続いてチャイナモバイル、中国工商銀行、中国石油化工など中国企業が上位の半数を占めていました。中国経済の大発展が世界経済を席巻した時代の象徴といえ、実際、中国経済は世界第2位の地位まで上り詰めたのは皆が知るところです。
さらに18年前の1989年まで遡ると、世界1位はNTT(日本電信電話<9432>)で、次いで住友銀行(現・三井住友フィナンシャルグループ<8316>)などの銀行各社、トヨタ、東京電力<9501>などが並び、世界の時価総額上位10社中、実に7社が日本企業でした。
土地の高騰をはじめとしたバブルに沸いた日本経済が世界をリードしていた時代です。振り返れば「バブル」と片づけられていますが、少なくとも当時は、日本には世界トップクラスの会社がたくさんあって、それが当然だと信じられ、時価総額で評価されていたのも事実です。
このように、いま現在、「そりゃそうだよね」とか「当たり前だよね」と思うことが、未来永劫も継続しているわけではないというのは重要な視点です。世界経済で言えば、概ね20年前後で主役が変遷していると捉えることができます。今はGAFAが主役ですが、20年後は全く変わっているかもしれません。
■日本国内でも主役は変わっていく
日本の株式市場だけを観察しても、興味深い変遷を示すものがあります。例えば、小売業界です。GDPの約6割を支える消費支出の多くを占める小売業界は、ライフスタイルの変化により、その主役が変わっています。
1960~70年代では、買い物の場の主役は百貨店でした。三越(現・三越伊勢丹ホールディングス<3099>)をはじめ、高島屋<8233>、大丸(現・J.フロント リテイリング<3086>)など百貨店が小売市場の上位を独占し、「デパートに行く」がステータスともなっていた時代です。
1970年~80年代になると、日常品のチェーン化を実現したスーパーが主役になります。代表的な会社がダイエー<8263>で、イトーヨーカ堂(現・セブン&アイ・ホールディングス<3382>)やイオン<8267>が続きます。
その後、1990年代から2000年代に入るとライフスタイルが大家族から個へシフトし、コンビニエンスストアが台頭してきます。だれもが知っているセブンイレブンですね。当時のセブンイレブンジャパン(現・セブン&アイ・ホールディングス<3382>)の株を買っていれば、投資額は数百倍にもなったことで有名です。
このように、時代とともに人々のライフスタイルに変化が生まれ、それによって業界の主役が移り変わり、株式市場でもそのポジショニングを高めていったのです。
■株式市場が時代を先取りしたITバブル
そして今、日本の小売売上高は2000年以降まったく増加していないこともあり、グローバルに事業展開しているファーストリテイリング<9983>(ユニクロ)が株式市場ではトップを走っています。
一方、小売以外で株式市場が先取りした動きとしては、2000年のITバブルが有名です。
当時はパソコンや携帯電話などの情報通信機器がコモディティ化し、急速に普及しました。カラーテレビが普及した時代と比べられることもありますが、IT業界ではその後のインターネット(当時はマルチメディアといわれていました)の爆発的成長という夢物語がまことしやかに語られていた時代でした。
株式市場では、利益どころか売上もほとんどない企業の株価が上昇し、古くからある優良会社の時価総額を超えることもしばしばありました。IT時代を先取りした象徴的な会社として、光通信<9435>やソフトバンク<9984>が注目されました。
よくわからないまま、当時肥大化していた時価総額をベースにM&Aが活発化し、そうした経営手法が注目もされました。結局は行き過ぎた株価形成だったのですが、今考えると、現在の5GやAIなど高度化した情報化社会を暗示していたという意味では間違いはなかったといえるのかもしれません。
■時代の潮流を見逃さず、長期視点を
株式投資においては、このように超長期で見たときに、現在起こっていることは決して過去の延長ではなく、まったく新しい事象が起こっているのかもしれない、という視点を持つことが大変重要です。
今のテスラがこの先も同じような企業として存在するかどうかはわかりません。ただ、時代の大変化の象徴銘柄となっている可能性はあります。テスラに続く会社は今後も増加してくるでしょう。それは、日本企業である可能性もあります。
また、時代の潮流を見る上では、株式以外でも、ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産、デジタル通貨)の動きもそうかもしれません。
こうした長期の視点や考え方を取り入れながら投資をすると、目先のちょっとした下落などは、あまり気にならなくなるかもしれませんね。
[執筆者]
鳳ナオミ(おおとり・なおみ)
大手金融機関で証券アナリストとして10年以上にわたって企業・産業調査に従事した後、金融工学、リスクモデルを活用する絶対収益追求型運用(プロップ運用)へ。リサーチをベースとしたボトムアップと政治・経済、海外情勢等のマクロをとらえたトップダウンアプローチ運用を併用・駆使し、年平均収益率15%のリターンを達成する。その後、投資専門会社に移り、オルタナティブ投資、ファンド組成・運用業務を経験、数多くの企業再生に取り組むなど豊富な実績を持つ。テレビやラジオにコメンテーターとして出演するほか、雑誌への寄稿等も数多い。現在は独立し、個人投資家として運用するかたわら、セミナーや執筆など幅広い活動を行う。