「友達以上、恋人未満」の2人 韓国ドラマ『サム、マイウェイ』が描く若者たちの難しい人生
<高校時代テコンドーの有力選手だった男(パク・ソジュン)と、アナウンサーになる夢を捨て切れない女(キム・ジウォン)。『サム、マイウェイ~恋の一発逆転~』は軽快なせりふの応酬で人生をリアルに描く>
幼なじみとして長年親しくしてきた「友達以上、恋人未満」な男女関係の行方を、軽快なせりふの応酬で見せるラブコメディー。なかなかうまくいかない人生を送る若者たちの生活がリアリティーたっぷりに描かれているのも見どころだ。高校時代、テコンドーの有力選手として活躍したコ・ドンマン(パク・ソジュン)。現在はアルバイトをしながら暮らしているが、かつてのライバルと再会したことから格闘技選手としての再出発を決意する。
一方、彼の近所に住む幼なじみのチェ・エラ(キム・ジウォン)も、アナウンサーになるという夢を捨て切れないまま日々を送っていた。
脚本を手掛けたのは、次作『椿の花咲く頃』(2019年)で一躍注目を浴びたイム・サンチュン。
「自分が望む人生を生きることの難しさ」というテーマや、職場や恋愛関係の中で女性が直面するハラスメントといった現代社会への視点は、このドラマでも既に描かれている。『梨泰院クラス』とも重なる真っすぐさを持ちながら、より人懐っこい魅力を感じさせる主人公ドンマンに扮したソジュン、テンポのいいせりふを繰り出すエラ役のジウォン、さらに彼らの親友カップルを演じたアン・ジェホンとソン・ハユンも含めた4人のチームワークがどこまでも爽快だ。
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『サム、マイウェイ~恋の一発逆転~』(2017)
出演/パク・ソジュン、キム・ジウォン、アン・ジェホン
※韓国を飛び出し、世界で支持を広げ続ける「進撃の韓流」――本誌5月4日/11日号「韓国ドラマ&映画50」特集より。本誌では、さまざまなジャンルの注目ドラマ20作品を取り上げています
この映画にもっと早く出会っていたら……
見終わった後で「韓国映画はえり好みせず、全部見よう」と思ったほど良かったのが『百万長者の初恋』(2006年)。「恋愛話をだらだらと見せられるのか?」と思いそうなタイトルだが、ありきたりじゃないのが韓国映画。
想像もしない方向に行くので、すっかりだまされてしまった。そうした伏線の描き方が、韓国映画はとてもうまい。もし私がこの台本をいただいて演じてくださいと言われても、結末を知っていたら、あんな演技はできないだろう。
主人公の御曹司ジェギョンを演じるのはヒョンビン。『愛の不時着』の北朝鮮の将校役からは想像もつかないくらい表情豊かで、びっくりするほど荒くれた演技もする。
人が生きていくなかでは、人と関わって気付くことが多い。「自分はこうだ」と思い込んでいたら視野が狭くなるし、損することになる。ジェギョンと同級生ウナンの関係を見て、そんな「人生の幅」について考えさせられた。最後には、誰もが胸を裂かれる思いになるような作品だ。
美を追い求めてきたが
5作目は、究極の愛について考えさせられた『ビューティー・インサイド』(15年)。
シネマトゥデイ / YouTube
毎朝目覚めると、年齢も性別も国籍も違う人間になってしまう男性の恋物語で、目から入る情報の大きさというものをあらためて実感し、衝撃を受けた。こういう映画がもっと話題にならないといけないし、これを見た人は今ある差別問題などについても深く考えてほしい。
「人はみんな一緒」と言うが、肌の色、髪や目の色、身長や顔立ち、人柄の全てが違う。みんな一緒に見えるのは血液だけ。この映画からは、人の血液や内臓を愛せるか? と問われているような気がした。
愛は苦しいものだってよく言う。苦しくて、しんどくて、切なくて、重くて......と嫌な表現ばかりだが、最後に「愛(いと)おしい」って一言が入ると思わせてくれた。愛おしいの一言は、ほかの何事にも代えられないぐらい大事。そのとき愛が、愛している側の人生になるんだと思った。
私は女の子になりたい、美しくなりたいと、表面的なことをずっと追い求めてきた。美容整形をしたり、性別まで変えたりして生きてきたが、この映画にもっと早く出会っていたら、どんなに楽に生きられたか。手術もしなかったかもしれない。後悔しているわけではなく、手術したら全ての悩みが消えると思っていたが、そんなことはなかったから。生きていれば、悩みはどんどん出てくる。
私は映画監督もしていて、トランスジェンダーの先輩の姿を残せるような作品を作ったが、こういう映画を撮りたいな、ちょっと悔しいなって思った。私が普段、講演会などで話しているのはこういうことなのかな、って。
(構成・大橋希)
※韓国を飛び出し、世界で支持を広げ続ける「進撃の韓流」――本誌5月4日/11日号「韓国ドラマ&映画50」特集より。本誌では夏までに日本公開される最新映画、注目のドラマも取り上げています