はるな愛「私のとっておき韓国映画5本」 演技に引き込まれ、究極の愛について考える

  • 文:柾木博行
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はるな愛「私のとっておき韓国映画5本」 演技に引き込まれ、究極の愛について考える

<韓国にゆかりのある4人がおすすめする笑って泣けて、心を揺さぶられる韓国映画。100回以上の訪韓経験があり2013年から韓国観光名誉広報大使を務める韓国通のはるな愛さんがおすすめする韓国映画とは?>

1.『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)
2.『7番房の奇跡』(2013年)
3.『いつか家族に』(2015年)
4.『百万長者の初恋』(2006年)
5.『ビューティー・インサイド』(2015年)

ゾンビ映画はアメリカのものなどを含めていろいろと見てきたが、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)のゾンビはとにかく演技が素晴らしい。例えば床からはっと起き上がるときの体の動きがすごくて、画期的といっていいくらい。

シネマトゥデイ / YouTube

ゾンビものは怖くて見たくないという人もいるかもしれない。でもこれは怖いだけの映画ではなくて、家族愛や親子愛、友情が本当のテーマ。人生の最後に何をすべきか、何を守るべきかを考えさせられる。もう苦しくなるくらいで、最後は泣いてしまった。
例えば、家族は些細なことで距離が生まれたり、けんかしたりするが、今そうした状況にある人にはぜひ見てもらいたい。自分が悪かったり言い過ぎたことを反省したり、自分にとって誰が頼りになる人なのかが見えてくる、そんな映画だった。いろいろな意味で、世界から注目される韓国映画の技術やレベルの高さも感じさせる衝撃の1本だ。

韓国には葬儀に「泣き屋」がいるように、本当に悲しむときは徹底的に、みんなで悲しもうという感覚があるのではないか。そうした心の動きが、演技に出ている気もした。

演技力の高さは多くの韓国映画に通じるものだが、なかでも『7番房の奇跡』(13年)は必見だと思う。

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知的障害があり、無実の罪で投獄された主人公を演じたリュ・スンリョンがさまざまな感情に引っ張られながらもぶれずに演じ続け、なおかつ怪しさ、怖さ、冷たさ、優しさなど、人間のあらゆる側面を感じられる演技をする。面白くて切なくて、とても引き込まれる。

雑居房の中で、主人公の幼い娘をみんなで育てるという「お節介」もいい。お節介は今の日本では忘れられたり嫌がられたりするが、実は災害など大変な時に力になってくれるもの。この映画を見ると、「身近な他人こそ、とても有難い存在」と思えるのではないか。そして、全ての笑いの裏に涙がある。面白くて悲しい、見事にそんな仕上がりになっている。

想像もしない展開が

おすすめの3作目は『いつか家族に』(15年)。大好きなハ・ジョンウが監督と主演をしている。今は社会において男女のボーダーラインが薄れている時代だが、この映画では昔ながらの男性像、女性像が描かれている。
舞台は朝鮮戦争休戦直後の1953年で、テーマは「血」。家族の血のつながりの話で、お金を稼ぐため病院に「血を売る」ことが物語のキーになっている。残酷な表現があったり、乱暴な言葉が飛び交ったりして驚かされるところもあるけれど、人々の生きる力とたくましさを感じた作品。血がみなぎっているから生きていける、でもその血を奮い立たせるのは自分自身の気持ちなんだと思わされた。

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この映画にもっと早く出会っていたら……

見終わった後で「韓国映画はえり好みせず、全部見よう」と思ったほど良かったのが『百万長者の初恋』(2006年)。「恋愛話をだらだらと見せられるのか?」と思いそうなタイトルだが、ありきたりじゃないのが韓国映画。
想像もしない方向に行くので、すっかりだまされてしまった。そうした伏線の描き方が、韓国映画はとてもうまい。もし私がこの台本をいただいて演じてくださいと言われても、結末を知っていたら、あんな演技はできないだろう。
主人公の御曹司ジェギョンを演じるのはヒョンビン。『愛の不時着』の北朝鮮の将校役からは想像もつかないくらい表情豊かで、びっくりするほど荒くれた演技もする。
人が生きていくなかでは、人と関わって気付くことが多い。「自分はこうだ」と思い込んでいたら視野が狭くなるし、損することになる。ジェギョンと同級生ウナンの関係を見て、そんな「人生の幅」について考えさせられた。最後には、誰もが胸を裂かれる思いになるような作品だ。

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美を追い求めてきたが

5作目は、究極の愛について考えさせられた『ビューティー・インサイド』(15年)。

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毎朝目覚めると、年齢も性別も国籍も違う人間になってしまう男性の恋物語で、目から入る情報の大きさというものをあらためて実感し、衝撃を受けた。こういう映画がもっと話題にならないといけないし、これを見た人は今ある差別問題などについても深く考えてほしい。
「人はみんな一緒」と言うが、肌の色、髪や目の色、身長や顔立ち、人柄の全てが違う。みんな一緒に見えるのは血液だけ。この映画からは、人の血液や内臓を愛せるか? と問われているような気がした。
愛は苦しいものだってよく言う。苦しくて、しんどくて、切なくて、重くて......と嫌な表現ばかりだが、最後に「愛(いと)おしい」って一言が入ると思わせてくれた。愛おしいの一言は、ほかの何事にも代えられないぐらい大事。そのとき愛が、愛している側の人生になるんだと思った。
私は女の子になりたい、美しくなりたいと、表面的なことをずっと追い求めてきた。美容整形をしたり、性別まで変えたりして生きてきたが、この映画にもっと早く出会っていたら、どんなに楽に生きられたか。手術もしなかったかもしれない。後悔しているわけではなく、手術したら全ての悩みが消えると思っていたが、そんなことはなかったから。生きていれば、悩みはどんどん出てくる。
私は映画監督もしていて、トランスジェンダーの先輩の姿を残せるような作品を作ったが、こういう映画を撮りたいな、ちょっと悔しいなって思った。私が普段、講演会などで話しているのはこういうことなのかな、って。

(構成・大橋希)

はるな愛(Ai Haruna)タレント、歌手。
2008年に「エアあやや」でブレイクし、以後テレビなどで活躍。100回以上の訪韓経験がある韓国通で、著書に『はるな愛のわくわくソウル』など。13年から韓国観光名誉広報大使を務める

※韓国を飛び出し、世界で支持を広げ続ける「進撃の韓流」――本誌5月4日/11日号「韓国ドラマ&映画50」特集より。本誌では夏までに日本公開される最新映画、注目のドラマも取り上げています