クール・ブリタニアを掲げたトニー・ブレア元首相、公務でいつも着用していたのがポール・スミスのスーツだった。
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一『政治家の条件』(岩波新書)で、経済学者の森嶋道夫は「政治の指導者には、燃えるような信念とともに冷静な現実感覚が求められる」と書く。では歴史に名を留める政治家たちは“モノ”に対してどんな視点をもち、なにを求めたのだろうか? 今回は、古今東西のリーダーたちが愛した名品を追う。
「ときとして敗北して正しいことをするほうが、勝利して間違ったことをするよりもよい」──そんな素晴らしい名言を残すイギリスの第73代首相トニー・ブレア。1953年にスコットランドのエディンバラで生まれ、地元のフェテスカレッジを経て、名門オックスフォード大学で法律を学ぶ。1983年、30歳の若さで下院議員に選出され、94年には労働党党首に。そして97年の総選挙で地滑り的勝利を導き、43歳という歴代2位の若さで首相に就任した。2007年に退陣するまでの10年間、労働党の首相としては最長の任期を記録した人物だ。
近年のイギリスの首相のなかでトニー・ブレアは間違いなく男前の首相と言える。身長も180cmを超え、颯爽とした出立ちと端正な顔立ちを備えていた。「クール・ブリタニア」を提唱し、イギリスを新しい時代に導くニューリーダーとして人気が高い首相であった。
そんなブレアが首相就任式で着用したのが、イギリスを代表するデザイナー、ポール・スミスのスーツだ。首相在任中にもよく着用し、まさにブレア政権を支えてきたスーツというわけだ。
イギリスのノッティンガムで生まれたポール・スミスが、自身の名を冠したブランドを立ち上げたのが1970年。昨年ちょうど50周年を迎えた。パリでショーを行ったのが76年、日本に進出したのは84年で、日本では本国以上の人気を誇る。デザイナー、ポール・スミスは94年にはエリザベス女王より大英帝国勲章(CBE)を叙勲され、ブレア政権下で「クリエイティブ産業タスクフォース」のメンバーに選ばれた。
今回紹介するのは、メインブランドであるポール・スミスのネイビースーツ。素材に採用したのは、イギリスの毛織物の産地であるハダースフィールドに本拠地を置くバウアー・ローバックのウール。しなやかさとともにハリのあるストライプ生地が着る人に気品を与える。仕立てにクラフツマンシップが漂い、まさにイギリスを知り尽くしたポール・スミスらしいモデルではないか。ブレアがこのブランドを指名した理由も、そこにあるのだろう。
問い合わせ先/ポール・スミスリミテッド TEL:03-3478-5600
http://www.paulsmith.co.jp