名宰相・吉田茂が愛飲した、イギリスを代表するスコッチウイスキー
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一『政治家の条件』(岩波新書)で、経済学者の森嶋道夫は「政治の指導者には、燃えるような信念と共に冷静な現実感覚が求められる」と書く。では歴史に名を留める政治家たちは“モノ”に対してどんな視点を持ち、何を求めたのだろうか? 今回は、古今東西のリーダーたちが愛した名品を追う。
日本を代表する政治家、吉田茂は戦後日本の基盤を築いた宰相として知られ、「ワンマン宰相」や「白足袋宰相」、「和製チャーチル」の異名を持つ。
そんな吉田は1878年に土佐の自由民権運動家である竹内綱の五男として生まれ、2歳のときに貿易業で財を成した吉田健三の養子となる。学習院や東京帝国大学などで長い学生生活を送った後、28歳で外務省に入り、外交官としてキャリアを積んだ。戦後、67歳で政治家に転身し、日本再建の重責を担ったことは誰もが知るところだろう。
吉田のトレードマークは和服に白足袋で、ハバナ産の葉巻を好んだ。しかし、外交官として長くイギリスに赴任していたこともあってか、スーツ、シャツ、ネクタイなどは全部自分で選んでいたという。娘の吉田和子が書いた『父 吉田茂』(新潮文庫)には、「気に入った生地があると、まったくおなじ服を二着注文します」とある。注文していたのはロンドンのサヴィルロウの老舗テーラーで、同じ服を2着同時に注文するとは相当の洒落者だ。足のサイズが小さかった吉田は、靴もイギリスで注文したものを履いていたという。
そんな吉田が愛飲したと言われているのが、イギリスを代表するスコッチウイスキーのオールドパーだ。同ブランドの創業は1871年。創業者であるグリンリース兄弟の父親は、スコットランド各地の蒸溜所と提携してウイスキーを販売していた。その父の仕事を受け継いだグリンリース兄弟は、試行錯誤の末にスコッチウイスキーの各産地の魅力が融合したブレンデッドウイスキーをつくり上げ、オールドパーと名付けた。
ブランド名は15世紀から17世紀にかけて152歳9ヶ月の長寿を全うし、イギリス史上最長寿と言われたトーマス・パーという人物の愛称に由来。このウイスキーを末永く後世に残したいと思うグリンリース兄弟の願いが込められている。
吉田が政治の世界から身を引いた後、彼の政治姿勢を引き継いだ佐藤栄作の紹介で大磯の吉田邸を訪ねた政治家がいた。田中角栄だ。そのとき吉田が上機嫌で角栄にふるまったのもオールドパーだった。後日、田中からその話を聞いた佐藤は「そうか、それなら間違いない。気に入られたんだ」と言ったとされている。田中も生涯、吉田と同じく「オールドパー」を愛飲した。イギリスを代表するスコッチウイスキーは戦後、日本のリーダーたちに脈々と受け継がれ、愛されていた。それを物語るエピソードではないだろうか。
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