まるでイノセンスな“レーシングドール”!? F8 トリブートが、フェラーリの白眉である理由。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第121回 FERRARI F8 TRIBUTO / フェラーリ F8 トリブート

    まるでイノセンスな“レーシングドール”!? F8 トリブートが、フェラーリの白眉である理由。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    フェラーリのV8ベルリネッタ最強モデルとなるF8 トリブート。

    クルマであれ、カルチャーであれ、心を奪われる経験がだんだん少なくなってきた我が感性ながら(笑)、2020年は心を奪われるどころか、「虜になった」と断言できるキャラクターがふたつあった。ひとつは京都アニメーションが制作した『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の主人公、ヴァイオレットその人であり、もうひとつはその名の通り、歴代のV8ミッドシップにオマージュをささげた、フェラーリ F8 トリブートだ。

    奇しくも両者のキャラクターには共通点が多い。戦闘マシンとしての本能をもち、イノセンスでありながら、なによりすべての所作をたぐいまれなるエレガンスで包み込んでいる。どちらもつくり手が理想のキャラクターを追い求めた、夢のカタチなんだよね。フェラーリ F8 トリブートは実在しているので夢じゃないんだけど(笑)、ステアリングを握っていた時間は夢のようで、未だ夢覚めやらずって感じですよ。

    まず、瞠目させられるのがスタイリングでしょ。ボンネットに配したSダクトと呼ばれる導風口が目を惹くのね。488 GTBのハードコアモデルだった488 ピスタから受け継いだエアロダイナミクスだけど、ホールのやわらかな曲線が波紋になって広がるように、全体を美しく調和させている。

    488 ピスタと同じ出力、720馬力と770ニュートンメートルを叩き出すフェラーリV8エンジンの最高傑作が、リアウインドー越しに透けて見えていて、優雅なスタイリングの中に、はっとさせられるメカニカルなパーツを強調している。そのさまはオペラグローブを外すと銀製の義手が出てくる、コントラスト強めのキャラクター設定が施されたヴァイオレット・エヴァーガーデンにも通じるね(笑)。

    走り出すと、車体は仕立てられたスーツのようにフィットする。オールアルミ製のシャシーに、高性能のV8エンジンがリニアに反応。どのドライブモード、速度域でも凛としていて退屈を知らない。488 GTBより40kgほど軽量化され、出力アップした走行性能が、リニアな操縦感によって明快なバージョンアップを実感できる。

    特に素晴らしいのが、ステアリングの解像度なんだ。GTモデルのポルトフィーノでさえピーキーに感じられた、昨今のフェラーリのステアリング解像度に対するこだわりが、絶妙な足まわりとともに、落ち着いた感度で路面情報を伝えてくる。声が大きいわけでも小さいわけでもない。指先を通して、正確に情報を伝達してくる感じ。

    この好印象は街乗りでもワインディングでも変わらない。ステアリングの傾向はミッドシップの利点を最大限に発揮したスーパーフラットで、ドライブモードやカーブへの侵入速度にほとんど影響されない。この特性は488 GTBを引き継いでいるわけだけど、720馬力を後輪のみで扱うわりに、後輪をブレイクさせる恐怖はほとんど感じられないんだ。しっかり路面を捉える走りは、ミッドシップの最高峰にまで高められているし、安全制御装置の介入を感じさせず、F8 トリブートの限界値が恐ろしく高いと感じさせられる……。

    パワーと走りが調和した、最新のV8ミッドシップ

    正直、この進化は歴然としすぎていて、「女神が舞い降りた!」と随喜の涙を流しながら高笑いするような、アンビバレントな感覚なんだよね(笑)。レースモードで感じるそれは、フェラーリ独自の安定制御システムであるサイドスリップ・アングル・コントロール(SSC)がより進化したことに他ならないんだけど、ドライブモードをCTオフの位置までもってくると、ブレーキを介入させるフェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(FDE)なる新技術が作動する。

    これは車体がドリフト状態に入った時に、ブレーキで姿勢を制御することでカウンターを当てる必要性を抑えるらしく、話題のGTであるローマにも搭載している、フェラーリの新たなドライビングダイナミクスなんだ。

    容易に素顔を見せなくなったのではなく、ハイレベルな底上げの結果、公道においてはスポーツやレースモードでほとんどのドライバーを満足させるスーパーカーが誕生した。素顔が見たいという欲望すら忘れてしまう、あまりにもエレガントなハードコア。街乗りと同じ地平にサーキットがあって、オーナーになったらサーキット走行を試さずにいることはほとんど不可能だと思う。FDEはそんなサーキットへの敷居を低くするのに一役買っているわけだけど、F8 トリブートのキャラクターは、今後のスーパーカーオーナーのライフスタイルを変える可能性も秘めている。

    とことん乗りこなせるスーパーカーは、必ずオーナーをサーキットへと連れ出すということ。仲間とのツーリングやひとりでワインディングを走る機会を圧倒的に増やしつつ、F8 トリブートのステアリングに触れる時間はすべてサーキットへ続いている。所有する喜びに増して実用する喜びがあり、F8 トリブートは街乗りからサーキットまでアディクテッドに魅了する。そしてこのサーキット走行を不可分とする走りは、最近広がりつつあるプライベートサーキットとの相性も抜群のはずなんだ。そう、「ゴルフの会員権よりサーキットの会員権」って時代ですよ。「なんていい時代なんだ!」って感じだよね(笑)。

    メインディッシュはもちろん、3.9LのV8ツインターボエンジン。F8 トリブートはV8ミッドシップの名作、F40へのオマージュを感じさせるものの、その出力はフェラーリ史上最強であり、F1由来のチタン製コンロッドやターボ回転センサーの採用により高効率で、反応速度も自然吸気エンジンに匹敵させている。

    あらゆるドライバーにフィットさせるリニアな走行体験へのこだわりがあり、グリップ走行からドリフト走行まであらゆる走行パターンを想定しているのね。そんな実力を誇ることなく、涼しげな顔をして颯爽とタスクをこなすF8 トリブートのエレガンスは、ほとんど至高の域に到達しているんだ。

    その屹立したキャラクターの背景には、ランボルギーニやマクラーレンといったライバルブランドの存在が確かに感じられる。ブランドネームでクルマを売る気はさらさらなくて、資金を投じて飽くなき探求をしながら、それぞれが自分たちの立ち位置を守り、未来に向かって新たな到達点を刻み込もうと進化しているんだな。やっぱり「なんていい時代なんだ!」という感想が口をつくし、F8 トリブートに至っては、価格でさえも「良心的だ」と感動させられちゃうんだよね。

    • ボンネット中央部のSダクトをはじめエアロダイナミクスを一新。

    • ダッシュボードを中心にデザインの質を向上させたインテリア。

    • 0-100km/hの加速はわずか2.9秒、最高時速は340kmを実現。

    • 高出力、高トルク、高レスポンスを突き詰めたV8ツインターボエンジン。

    • F40へのオマージュを込めたクリアエンジンカバー仕様。

    • 復活したクワッドテールライトが印象的なリアビュー。

    フェラーリ F8 トリブート
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4611×1979×1206mm
    ●エンジン形式:V型8気筒DOHCツインターボ
    ●排気量:3902cc
    ●最高出力:720PS/8000rpm
    ●駆動方式:MR(ミッドシップエンジン後輪駆動)
    ●車両価格:¥33,280,000~(税込)

    ●問い合わせ先/オフィシャル・フェラーリ・ウェブサイト
    www.ferrari.com