東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第116回 PORSCHE CAYENNE TURBO COUPE / ポルシェ カイエン ターボ クーペ
SUVにバケットシートのパラレルワールド!? ポルシェのカイエン ターボ クーペと、リアルスポーツの到達点。

カイエンより20mm低いチョップドルーフ仕様のカイエン ターボ クーペ。
高級スポーツカーメーカーによるSUVブームの先鞭をつけた、ポルシェのカイエン。発売から18年が経ち、モデルも3世代目に突入。新型には満を持してクーペモデルが導入された。そんなカイエン クーペのV8エンジン搭載モデル、カイエン ターボ クーペに試乗した。結論から言ってしまうと、カイエン ターボでもなく、素のカイエン クーペでもなく、買うなら「絶対にカイエン ターボ クーペが欲しい」と思ったんだ。それも、この試乗車に付けられたオプションを全部乗せでオーダーしたい……。
まず、このカイエン ターボ クーペにはライトウェイトスポーツパッケージというオプションが用意されていて、カーボンルーフや22インチの鍛造軽量ホイール、スポーツエグゾーストシステムといったカイエン ターボ クーペたらしめる超重要アイテムがセットで付いてくるのね。このオプションがあるとないとでは、大違いなんだ。
走り出してわかるのは軽快な身のこなしと、ハンドルから伝わる情報の解像度が抜群に上がっていること。バネ下重量を軽減したことで、2トンを超える自重で路面入力を押さえつけるような固さが取れ、驚くほど洗練された足まわりになっている。ランボルギーニのウルスもそうだけど、SUVのスポーツ性能を、ライトウェイトスポーツのようなハンドリングの軽快さやしなやかさに見出そうとする、ある意味ではスーパースポーツ系SUVのトレンドな足まわりと言えるかも。
ノーマルモードで街中を走っていても驚くほど軽快なんだけど、峠に連れ出すと度肝を抜かれるね。正確無比なハンドリングは従来通りのカイエン。だけど、4輪の接地感が桁違いにいい。解像度が高いゆえにグリップ感が伝わり、タイヤの限界が手に取るようにわかる。そして、とにかくロールしない。道がナローだろうがツイスティだろうが、まったく外に振られる気がしない。
試しに速度を上げてみると、ようやくタイヤが悲鳴を上げる頃合いで限界も来るって感じ。カイエン発売から18年。スポーツ系SUVは「ここまで来たか」って感じですよ。これらはオプションの後輪操舵のリアアクスルステアリングと、ロールを安定化する設定を組み込んだPDCC(ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロールシステム)の効果。でも不思議と電子デバイスが効いている感じはなくて、とても自然なんだ。
とことん走りを楽しめる、最新のSUVクーペモデル
さらに「しない」で言えば(笑)、アンダーが出ない。大きな理由はリアアクスルステアリングと、4駆のSUVとはいえトルクの90%を後輪にもってきているからなんだけど、アンダーが出ないSUVでのワインディングの楽しさはちょっとありえない感覚なんだ。カイエンみたいな大型車でアンダーが出ないとサイズが小さく感じられるし、視点だけが高くて、挙動がスポーツカーのそれだと錯覚しちゃうんだよね。完全にサイズを忘れて、走りに夢中になることができる。長い下り坂のワインディングなんかは車重さえ忘れる時があるくらいで、本当に要注意。
この錯覚がすごすぎて、ドライバーにはついつい禁断の感想をもたらすのね。「やっぱり911が欲しい」って、身も蓋もないことを思っちゃうんだ(笑)。よく考えたら失礼な話ですよ。たとえば実力のある歌い手がほぼ完璧に、自分らしさも交えながら名曲「秋桜」を歌い上げたとする。でもやっぱり、「山口百恵が歌っているほうがいい」って思うようなものですよ(笑)。ただそこまで思わせるリアルスポーツの完成度は、本当に高いってこと。はい、だからこそカイエン ターボ クーペには、バケットシートを強く強く推奨したいんだな。
そしてV8サウンドも最高。このサウンドを味わい尽くすためにも、スポーツエグゾーストシステムは絶対必要。街乗りやアイドリングなんかでは意識されることがないぐらい静かだけど、スポーツやスポーツプラスモードでは獰猛なV8エンジンが唸りを上げる。車外ではアイドリングでさえアフターファイヤー音がバチバチ鳴っているぐらいワイルドで、レーシーなエンジンを積んでる感がハンパない。先代カイエンの最終型に乗った時、新型のテーマは「きっとカイエンの911化にある」と考えていたんだけど、浅はかだった。全然、違ってたんだ(笑)。
新型カイエン ターボは先代のカイエンと同じく、V型のレーシーな高回転型エンジンの個性を大幅に進化させ、2020年代にチューニングを合わせてきた。シンプルに言うと、王道の高級スポーツカーとしての正常進化なわけ。そして新型911以上にドラスティックな進化を実感できるのが、このカイエン ターボ クーペって感じ。まぁ、そこは前述したオプションで出る差異が、SUVゆえに大きく影響しやすいからとも言えるかも。
さて、選ぶべきは普通のカイエンかクーペボディかという話なんだけど、カイエンはクーペよりも30kgほど重量が軽い。その上、荷物も積めるし、後部座席のスペースも広い。しかも100万円ほど価格が安いとくれば、クーペを選ぶ理由はなくなりそうなものだけど、そんなことは断じてないんだ(笑)。
エアロダイナミズムに優れているから、0-100km/hが0.3秒ほどクーペのほうが速いこともあるけど、なによりこのバケットシートをもち込みたくなる走りにはクーペボディがお似合いなんですよ。驚異的な走りを見せるSUVがカイエンだとして、よりその走りをスタイルで表現しているのがカイエン クーペ。
それとクーペ型のSUVはBMWがX6で先鞭をつけて以来、10年以上もポルシェがクーペ型SUVを発売しなかった意味を考えたい。セダンのパナメーラがフライラインと呼ばれる911のルーフ形状を採用し、ブランド全体における911の求心力がまた高まってきた。カイエンをカイエン クーペと並べてみると、先代のパナメーラと現行モデルを並べた時と同じ感想が浮かんでくるんだ。「よりポルシェらしいデザインになったよね」って。
逆にノーマルのカイエンを選ぶのは荷物も積みたい人だろうし、アウトドア志向の強い人だと思うので、ライトウェイトスポーツパッケージはナシにして、よりエアサスの乗り心地を活かした足まわりにするといいと思う。先代もそうだったけど、もともとカイエンの本筋はそっちで、たぐいまれなスポーツ性能をもちながらもSUVらしいどっしりとした佇まいと、巨体を手なずけるように、悠々としていながらスポーティな身のこなしが高級感につながっていた。それはそれでやっぱり、愛すべきカイエン的な特徴なんだよね。
0-100km/h加速は3.9秒を達成。
タングステンカーバイドでコーティングされたローターと、10ピストンモノブロックのキャリパー。
カーボンファイバーとアルカンターラを用いた内装。
千鳥格子柄のファブリックがクラシカルなシート。
カイエンより18mmワイドになったリアトレッド。
リアには固定式とアクティブルーフスポイラーを装備。
●サイズ(全長×全幅×全高):4940×1995×1655mm
●エンジン形式:V型8気筒DOHCツインターボ
●排気量:3996cc
●最高出力:550PS/6000rpm
●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
●車両価格:¥20,630,000(税込)
●問い合わせ先/ポルシェ
TEL:0120-846-911
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