今年最注目作の『TENET テネット』は、脳が一瞬"バグる"ような新しい映像体験。
初期の『メメント』から前作の『ダンケルク』まで、“時間”を巧みに操り、組み替えてきたクリストファー・ノーラン監督の集大成ともいえる最新作『TENET テネット』が、ついに今日公開されます。“時間の逆行”と呼ばれる装置が開発された未来から来る敵と戦うという、難しいミッションを与えられた“名もなき男”が主人公。「TENET」という単語をキーワードに、相棒のエージェントであるニックとともに謎に挑んでいく物語です。
時間は戻すことができるのか? というある種の哲学的な問いをタイムトラベルとは違う形で実際の映像にしているわけで、カーチェイスのシーンをはじめひとつのスクリーンのなかで時間の“順行”と“逆行”が行われているシーンでは、「!?!?」と語彙力ゼロ状態に。目の前で繰り広げられていることを処理できずに一瞬脳がバグるような感覚は、まさに新しい映像体験といえます。CGに極力頼らないことで知られ、偏執的とも言える実写への思い入れをもつノーランだけに、大型旅客機ボーイング747を購入して爆破させるなど常軌を逸した撮影を今回も。もちろんこれまでのように、アクションなどのシーンはIMAXカメラで撮影されています。
とはいえ、この世界独自の概念を懇切丁寧に説明してくれる映画ではないので、映像に浸りたいと思っているのに、ルールがちんぷんかんぷんすぎて振り落とされてしまうシーンがあったのも正直なところ。赤い部屋と青い部屋の違いや、逆行装置のルールがわかった上で観ると、映像にさらに没入できるかもしれません。ストーリーをシンプルに捉えれば、これはノーランが偏愛しているという「007」シリーズのような王道のスパイもの。
一度目の鑑賞では世界各国を移動しながらミッションに挑む名もなき男の勇姿や、わかりやすいヒールとたくましく美しいヒロインの闘いを楽しみ、二度目には独自のルールを考察した上で挑む、そして三度目には……となると、なんだか監督にまんまと操られているようで悔しくもあるのですが、映画館で映画を観ることが特別な体験になっているいま、ノーランが仕掛けた罠にかかってみるのも楽しいのではないでしょうか。
『TENET テネット』
監督/クリストファー・ノーラン
出演/ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソンほか
2020年 アメリカ映画 2時間30分
9月18日より全国の映画館にて公開。
https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html