東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第114回 CADILLAC XT6 / キャデラック XT6
受け継がれるアメリカン・フォークロア!? 人に寄り添うSUV、キャデラック XT6とは。
待ち望んでいたキャデラックの大型SUV、XT6に乗った。シャシーをXT5と共有し、座席を3列シートにすることで乗車定員は6人になった。乗ってみると、これだけ優雅で気の利いた大型SUVが800万円強で買える(エントリーモデル)という、コスパの高さに唸らせられたね。
まずそのデザイン性に、惚れぼれするでしょ。キャデラックらしい、どんなライバル車にも引けを取らない存在感と、よく見ると精緻で繊細な意図を感じさせるエクステリア。水平基調のフロントフェイスは塊感の中に鋭くエッジを効かせていて、カーデザインと言うよりも建築的な意匠を感じさせる。写真を撮ればわかるけど、どのアングルから見ても線とプロポーションに無駄がないのね。被写体として完璧。もうSUVのデヴィッド・ボウイか、キム・カーダシアンかってなもんですよ(笑)。ロングホイールベースで高さもあり、フルサイズの大型SUVを愛する人ならスルーできないオーラがあるんだ。
フルサイズという意味ではキャデラックにはエスカレードがあるけど、XT6はスタイリングも乗り味も別ブランドと思えるぐらいにコンシャス。それでいてやっぱり「マイ・キャデラック」と呼びたい“マイメン”感もしっかりある。
走らせてみると、アクセルにトルクがよく付くターボ車のような軽快さが心地よい。それでいて静粛性が抜群で、よく回るV6の自然吸気エンジンとの組み合わせがしっくりフィットしている。ゼネラルモーターズのV6エンジンは、どうしてもV8のOHVエンジンに比べると格下感が否めなかったけど、XT6はこのV6エンジンでしかありえないプロダクトとして成立しているのね。
ドンと踏めば、車重を感じさせない胸のすく加速感。これでも十分だけど、あえてこの方向性で走りのグレードを上げるとしたら、ライバルのリンカーン アビエーター(日本未発売)のようにPHEV化して、モーターの付加価値を付ける他ない。そもそもV8エンジンが期待されないフルサイズのSUVは、いい意味で期待を裏切られるわけ。この驚きを最近の音楽シーンでたとえるなら、シンガーソングライターのテイラー・スウィフトの新譜『フォークロア』みたいな感じかな(笑)。
『フォークロア』はハートフルかつ地に足の着いたアルバムで、ポップスでもカントリーでもなく、ファンの期待をいい意味で裏切っているのね。アメリカのシンガーソングライティング文化の伝承(フォークロア)という意味でも、XT6のさまざまなお役立ち機能とともに、キャデラック本来のマインドとも重なっている気がする。個人に、そっと寄り添ってくるんだよね。
ブランドの伝統が息づく、最新のアメリカンSUV
さて、走りのモードとしては前輪駆動か4輪駆動かを選べるんだけど、圧倒的に4輪駆動が素晴らしい。前輪駆動でも気にならない人は気にしないだろうけど、そこそこ車重があるので4輪で路面をつかむ走りのほうが安定している。特筆すべきは4輪駆動を感じさせない、アンダー傾向にはならないハンドリングの正確さ。中心がしっかりしていて、ハンドルを回した分だけ車体がきっちりと旋回するんだ。
街中ではやや繊細すぎるかもしれないけど、峠のようなナローなワインディングで意外な効果を発揮する。このハンドリングを担保にして、SUVらしいサスペンションのストロークを活かし、重心移動とともに沈み込みつつ、右へ左へリズミカルに連続したコーナーを駆け抜けるんだ。これがめっちゃ楽しい。
固すぎない車体剛性が躍動感を生み出し、適度なロール量にも設計の意図があることを感じさせる。まぁ、お世辞にも低重心とは言えないから(笑)、欧州のスポーティなSUVのような速さはないけど、ちゃんとパドルシフトの使いどころのあるSUVとしても楽しめる。
XT6の足まわりには、前方の路面状況をカメラで判断して減衰力を変えるリアルタイムダンピングサスペンションが標準装備で付いているのね。この効果によるものか、路面入力を車重で押し潰しつつ、車体をフラットに保つ乗り味が特徴的。硬くもやわらかくもなく、入力が伝わる寸前にミュートされ、揺れはすばやく収まるって感じなのね。だから従来のアメリカ車のような、わかりやすいエアサスのフワフワした高級感はまるで狙っていない。
試乗したXT6はナイトクルーズエディションという限定モデルで、夜間でも熱感応式赤外線センサーで歩行者や動物を検知してメーターパネルに表示するエンハンスドナイトビジョン機能を搭載している。インテリジェントマトリックスLEDヘッドランプも秀逸で、近づいてくる対象物だけに器用にライトを当てているのがわかる。他にもいろいろあるんだけど(笑)、これだけ使える装備がてんこ盛りで付いていて1000万円を切る価格設定は、さすがにテイラー・スウィフトもびっくり(笑)。「アメリカの良心」でしょう。
やっぱりアメリカ車は出合いがなによりも大事。そのスタイルが好きでたまらないならたった一度の人生、「乗ってみましょうよ」っていうのがアメリカ車であり、その熱い思いを叶えることがキャデラック・オーナーの本懐でもある(笑)。XT6は洗練されたアメリカ車だけど、ちゃんとハートを通わせたお付き合いをしたいと思わせるはずなんだ。
●サイズ(全長×全幅×全高):5060×1960×1775mm
●エンジン形式:V型6気筒DOHC自然吸気
●排気量:3649cc
●最高出力:314PS/6700rpm
●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
●車両価格:¥9,100,000(税込)
●問い合わせ先/GMジャパン・カスタマーセンター
TEL:0120-711-276
www.cadillacjapan.com