マーティのイメージを決定づけた、レンガ色のダウンベスト
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一生きているということ以上にエキサイティングなことがあるだろうか。生きていればこそ奇跡が起こり、英雄的な偉業も達成される。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)の台詞にあるように、われわれが向かう先に道など必要ないのだ。映画が公開された翌年、第40代アメリカ大統領ロナルド・レーガンは、アメリカ議会の一般教書演説でこの台詞を引用しながら未来を語った。それほど影響力があった映画と見て間違いない。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、アメリカの高校生マーティ・マクフライ(マイケル・J・フォックス)が、彼の親友で科学者のエメット・ブラウン、通称ドク(クリストファー・ロイド)の愛車デロリアン=タイムマシンに乗り、30年前の1955年にタイムスリップして両親の恋路を助ける物語だ。見事大ヒットを遂げ、89年には舞台を2015年に設定したPART2、翌90年には1885年へタイムスリップするPART3が製作され、シリーズ全作が大ヒットを遂げた名作である。今回は主人公マーティが1作目で身に着け、その後シリーズを通して登場し続ける80年代の名品たちの話をしよう。
主人公マーティ(マイケル・J・フォックス)のイメージを決定付けたのは、レンガ色のダウンベストに違いない。彼はパッチワークのデニムブルゾンの上からダウンベストを重ね着しているが、いかにも80年代風ではないか。2009年の英国のガーディアン紙のインタビューで「(駐車場での撮影が)本当に寒くて、そうじゃなかったらベストは着ていません」とマイケルは当時を振り返った。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー完全大図鑑』(スペースシャワーネットワーク)によれば、ロサンゼルスから40キロ西に位置する町、シティオブインダストリーのモールでこのシーンが撮影されたのが1月。アメリカ西海岸とはいえ、冬のロサンゼルスは意外に寒い。もし夏に撮影されていたら、マーティのこのダウンベストは映画に登場しなかったかもしれない。
映画の前半で1955年にタイムスリップしたダウンベスト姿のマーティだが、町に入ると誰もが彼のスタイルをいぶかしみ、ダイナーの主人から「どうした坊や、船が難破でもしたのか。それ救命胴衣ってもんだ」と勘違いされる。
そもそも中綿に羽毛を使ったダウンジャケットがアメリカで商品化されたのは1930年代のこと。アメリカのバックパッキングブームとともに、ダウンジャケットはアウトドアで着用されるようになった。1970年代後半には日本でも、アメリカ西海岸を中心としたアウトドアスタイルが「ヘビーデューティー」という名前で脚光を浴び、最新のトレンドアイテムとしてダウンベストなどを町で着こなす人も見られようになった。
マーティが着たレンガ色のダウンベストはクラスファイブ(class-5)というブランドのもので、1971年にアメリカ・カリフォルニアのバークレーで誕生したアウトドアブランドだ。もともとザ・ノース・フェイスに在籍していたJustus Bauschingerが立ち上げたブランドで、『ヘビーデューティーの本』(ヤマケイ文庫)にはダウン製品以外にもバックやテントまでつくる本格的なアウトドアメーカーだと書かれている。一時ブランドはクローズするが、幸いなことに再開。いまでも当時のアウトドアスタイルを彷彿させ、さらに機能を現代的にアップデートさせたアイテムをリリースしている。嬉しいことにマーティ愛用のダウンベストも発表されている。マーティになり切るには絶対にこのダウンベストを手に入れるしかない。
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