夜のニューヨークを駆け抜けた、『タクシードライバー』のタンカースジャケット
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一俳優ロバート・デ・ニーロが生まれたのは1943年。両親とも画家で、父親の作品はグッケンハイム美術館に展示されていたこともあったという。ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジとリトル・イタリーで少年時代を過ごした彼は、10代のころから演劇に魅力を感じていた。有名俳優を輩出した名門アクターズ・スタジオで演技を学び、60年代からプロの道に。マーティン・スコセッシが監督した『ミーン・ストリート』(73年)で注目を集めた後、『ゴットファーザーPARTⅡ』(74年)で主人公ビトー・コルレオーネの青年時代を演じ、アカデミー賞助演男優賞を受賞する。役者魂を体現することでも知られ、役づくりに徹底してこだわる。役柄に合わせて25キロも体重を増量したり、髪の毛まで抜いてしまうことも。名声を得た後でも多くの作品に参加、2019年は『ジョーカー』や『アイリッシュマン』といった話題作に出演、映画界のレジェンドとはまさにロバート・デ・ニーロのことだ。今回はそんな彼が映画で着用していた4つの逸品に迫る。
“You talkin’ to me(オレに用か?)”。
ロバート・デ・ニーロが演じた『タクシードライバー』(76年)の主人公トラヴィス・ヴィックルが繰り返し発する有名な台詞だ。トラヴィスはベトナム戦争の帰還兵。ニューヨークでタクシードライバーになり、闇深い街を走り、「いつか本物の雨が降って、この都会のクズどもを洗い流してくれる」と日記に綴る。そんなトラヴィスが着ていたのが「タンカースジャケット」だ。
タンカースジャケットは、第二次世界大戦でアメリカ陸軍の戦車部隊が冬期に着用していたミリタリーウエア。戦車の内部という狭い空間で動きやすいように極力シンプルにつくられている。身頃はコットン地で、襟、袖口、裾はすべてリブ編みを採用。ポケットの違いで前期型と後期型があり、トラヴィスが着ていたのはスラッシュポケットのついた後期型だ。
今回取り上げるのは、トイズマッコイが製作した「タクシードライバーモデル」。これはアメリカで保管されている実際に映画で使用されたプロップを検証して製作されたもので、映画会社のライセンスを取得した正規なモデル。左腕の「キングコングカンパニー」や右胸のワッペンも映画通りに再現されている。ポケットももちろん後期型のスラッシュタイプで、やや上に付けられている。映画のポスターにも描かれているが、タンカースジャケットを着たトラヴィスが歩いている様子が厳つく見えるのは、高い位置のポケットに両腕を突っ込んでいるからだろう。
実はこのジャケット、デ・ニーロにプレゼントされたのだとか。後日、仕上がりを気に入った本人から直筆のメッセージを綴ったポスターが同ブランドに送られてきたという逸話まで残る、まさに”本家公認”のジャケットだ。
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