写真:宇田川 淳
Vol.81 アンリアレイジ VS ダブレット、だまし絵デザイン対決の勝者はどちら !?
ニッポンには形がいびつな器や、年月が経って塗装が剥がれた建物といった異形の品を愉しむ文化があります。我が国のデザイナーによるモードも同様で、コム デ ギャルソンやヨウジ ヤマモトが海外進出したとき絶賛された理由のひとつは、西洋の“構築” と異なる “非構築” の崩した形にありました。西洋人にはない着眼点に拍手が送られたのです。
今回取り上げるアンリアレイジとダブレットも、こうしたニッポンモードの系譜で語れる注目株です。ルイ・ヴィトンを擁する世界有数のラグジュアリーグループのLVMHが主催する「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」で、アンリアレイジは2019年度の最終選考に残り、ダブレットは18年度のグランプリを受賞。ともに現在はフランス・パリで新作を発表し世界に発信しています。
彼らに共通するのは、斬新なアイディアを形にする行動力と、見る者の笑顔を誘うポップな作風。歪んだ形をも良しとする伝統の美意識が、ストリート世代ならではの親しみやすい表現で服になっています。世界のファッション通を唸らせるのに不可欠な品質の高さも、両者は世界基準に迫っています。
今季春夏は2ブランドが、さらなるユーモラスなアプローチを見せてくれました。気づくと驚く、トロンプルイユな仕掛けが満載です。
アンリアレイジ
上写真のブレザー、ボタンダウンシャツ、ヘルメットバッグの3点は、誰もがよく知る定番のアイビーアイテム。しかしどれも斜めに歪んで、形が真っ平ら! これは服を着た人を斜め横から見た構図を、現実の服に仕立てたコンセプチュアルな作品なのです。写真のように床に広げると平面で、着ると歪んだまま立体になる仕組み。ヴァーチャル世界と現実世界を行き来するアンリアレイジならではの、折り紙にも似た着られるアートです。
こちらはアーガイル模様のVネックニットとリジッドデニムの、同じくベーシックな組み合わせ。やはり歪んでいますが、どんな視点かお分かりですか? そう、着る人の正面を上から見下ろした構図なのです。上部が膨らみ、下にかけて小さく狭くなっています。着ると不思議なルーズさが現れる服です。
ニット ¥33,000(税込)、デニム ¥46,200(税込)/ともにアンリアレイジ TEL:03-6416-0096
ダブレット
憧れや洗練された生活を表現するファッションの在り方に対して、ダブレットはありのままの自分を受け入れ、少年時代の自由な好奇心を取り戻してくれる存在です。今季は観光地の「顔出し看板」ふうのアイテムを多数、ラインアップしました。下写真のTシャツは、着たまま背中を持ち上げて首穴から顔を出すと、見る者を笑わせる “宴会芸” に!
モチーフは、アメリカ・ラシュモア山国立記念公園の岩石彫刻。ジョージ・ワシントン大統領の位置が、あなたの顔になります。 右下の某雑誌のパロディアイテムは、PVCのクラッチバッグ。本のように開けば、透明窓から顔をのぞかせられます。裏表紙にも本物の広告そっくりの写真と文を入れた、“本気の” 完成度です。
Tシャツ ¥27,500(税込)、バッグ ¥30,800(税込)/ともにダブレット(スタジオ ファブワーク TEL:03-6438-9575)
パーカは、虎の図案が両袖の肘と、前身頃とに分かれて刺繍されています。写真のように、腕を前で組んだ時だけ絵が出現するのです。日常のなにげない仕草にハッとさせられる瞬間が訪れるアートピースです。デニムは人が余裕でふたり入る、「二人羽織」のスーパービッグサイズ。ウエストをギュッと絞って穿きましょう。
パーカ ¥57,200(税込)、デニム ¥57,200(税込)/ともにダブレット(スタジオ ファブワーク TEL:03-6438-9575)
実用とアートの境界線上にあるモードファッションの中で、アート寄りの創造を続けるアンリアレイジとダブレット。額縁に入った絵は気軽に外に持ち出せませんが、服なら着て出歩けます。誰もやらないことに挑んできたニッポンモードの歴史に、しっかりと名を刻む若き両雄です。